第46話

勢いよく地面を蹴って飛び出すコウ。突っ込んでくるコウに対し、ブロックは全身に鎧を纏いて待ち構える。

二人が接触した瞬間、広範囲の衝撃と膨大なエネルギーが爆発し、周囲の建物が粉々に砕け散ってしまう。

コウの突進を受け止めていたブロックは、コウの両腕を掴み、強引に振り回した後に投げ飛ばす。投げ飛ばされたコウは飛ばされている体勢からブロックに向けて右手からビームを放ち、ブロックに直撃した。

鎧のおかげでダメージは抑えられているが、たった一撃で自慢の鎧を全壊させられブロックは驚愕の表情を浮かべる。


(ミサイルの直撃でも無傷だった俺の鎧が一撃で!?)


ブロックは鎧を再構築し、全身に纏う。初めは力があるといっても所詮は子供、戦い方は粗末なはずだと思っていたブロックだったが、先程の一連の攻防・機転の良さを見て、倒すべき強敵とコウを認識した。

その一方で、コウは冷静だった。初めてブロックを見た時の戦い慣れている風貌・硬度が高そうな鎧。それら全てが予想通りだったから。


(とても硬い鎧で瞬時に再構築も出来るか、厄介だな。全力で殴れば壊せそうだが、次の一手を打つ前に再構築されて決められない。さっきは運良くビームが当たったけど、次は躱される。)


お互いが相手の力を理解し、次の一手をどうするかという考えを巡らせる。その間、指の一本も動かす事もなく、目だけは相手の姿を見失わぬよう捉え続けていた。

お互い全く動く事がなく時間が流れ、先に仕掛けたのはコウ。コウは地を這うかのように低い体勢のまま走り、右手でブロックの胴体にパンチを入れようと構える。

胴体にパンチが来ると勘付き、ブロックは両腕を合わせ胴体の前に構えた。


(かかった!)


コウはパンチを振ろうとフェイントを入れ、体を捻らせてブロックの首元にかかと落としを当てた。クリーンヒット、手応えはあった・・・にも関わらず、ブロックは少し大勢を崩すだけでビクともしておらず、鎧にもヒビ一つ入っていない。


「頑丈な!」


地面に着地した後すぐに攻撃をしようと思ったコウだったが、一瞬空中浮かんでいたコウの足をブロックに掴まれ、そのまま地面に振り下ろされる。

顔面から地面に激突し、更にブロックはまたコウを振り上げ、今度は地面に向かって勢いよく投げ飛ばした。

コウの体が地面に激突し、跳ね上がったコウの胴体にブロックはタックルを当てる。助走を付けていないにも関わらず、まるで巨大な鉄の塊のような衝撃を発し、コウの体はブロックの目に見えなくなるほど遠くまで吹き飛ばされてしまう。


「頑丈だと思うが、今の一撃は効いただろう。」


これ以上向かってくる事はないと判断したブロックは、教会に置いてきたサレナの元へ向かおうと背を向けた。

その時、背筋に強烈な寒気と電流が走り、ブロックは鎧をパージして横に飛びついた。そのすぐ後に、さっきのビームよりも高出力の太いビームがパージした鎧を簡単に蒸発させ、そのまま教会を貫通。ビームが消失した後、教会には巨大な穴がポッカリと出来ている。


「サレナ・・・サレナ!!!」


教会に駆け寄ろうとしたが、支えを失った教会は倒壊してしまう。ブロックは倒壊した教会を見て、中にいたサレナが死んでしまったと思い、膝をついて涙を流した。

そこへコウが駆けつけ、泣いているブロックの背後から忍び寄り、トドメを刺そうと右手をブロックに向ける。

ビームを放とうとした時、倒壊した教会の瓦礫の山から新しく生まれる生命の反応を察知した。


「なんだ?」


コウの声に気付いたブロックはすぐに鎧を纏って構えたが、彼の視線が自分にではなく、瓦礫の方に向けられているのを不審に思い、視線を瓦礫の方へと移す。

瓦礫からは黒い液体が流れ、やがて一つの水たまりとなり、そこからサレナが姿を現した。

今までとは様子が違うサレナにコウはおろか、ブロックも気付いていた。


「サレナ?どうしたんだ?」


「異能体の変異化・・・いや違う、これは一体―――」


「再臨だ。」


誰かが冷たく呟いた。二人が振り返ると、そこにはネムレスが立っていた。


「ネムレス!!!」


「ネムレス・・・まさか、あのネムレスか!?この世界でも混乱を!?」


「元気そうだなコウ。そちらは・・・初めましてだな。俺の名前はネムレス。過去を失った哀れな男さ。」


「ミオはどこに!無事なんだろうな!」


「言ったはずだろうコウ。俺の部下5人を倒せば返してやると。それよりも、今は俺よりあっちに集中した方がいいぞ?」


タバコに火を点けながらネムレスはサレナの方へ二人の視線を移す。再び二人が目にしたサレナの姿は、最早原型を留めておらず、特に頭部は開花寸前の花に変化している。


「こいつらには少し細工を加えていてな。死に反応する種が心臓に埋め込んであって、そいつが発芽すれば強大な力を持った化け物に生まれ変わる・・・どんな化け物になるかは分からん。まだ目にしてないからな。」


「たとえどんな化け物になろうが、必ず殺す!そしてお前も!」


「それは楽しみだ!で?そっちの大男はどうするんだ?」


「殺す以外に方法は無いのか?種を取り除けば―――」


「助ける方法は無い。元々死人の体を使っているからな。」


「死人・・・セレナは死んでいたのか?」


「セレナ・・・あー、それがニンファの本名か。ああそうだ、死んでいる。」


何食わぬ顔でタバコを吸い続けているネムレスに怒ったブロックは右腕だけに鎧を纏わせ、ネムレスに殴りかかった。

しかし、その拳はいとも簡単に受け止められてしまい、挙句鎧を灰皿代わりにさせられてしまう。


「くっ!?」


「お前の力は妙だ。変異体でもなければ異能者でもない。」


ネムレスはブロックの指に嵌められた奇妙な指輪に目がいき、何かを察知したようでニヤリと笑みを見せた。


「どうやらノームの言った通りになっているようだな。」


「ノーム?」


「おっと!質疑応答はここまでのようだ!お二人とも頑張って再臨の力を見せてくれよ?」


そう言い残し、ネムレスは背後に出現した闇の中へと消えてしまう。ネムレスが消えると、セレナの頭部の花が芽を開けた。


「来るか!鎧のおじさん!あんたは隠れてろ!あの女は・・・あんたの大事な人、なんだろ?」


「・・・いや、逃げる訳にはいかない。セレナは俺の友人だ。その友人の体が化け物に変わった。その後始末は、友人の役目だ!」


ブロックは全身に鎧を纏い、コウはいつでも飛び出せるように構えをとる。変異体・異能者をも超える力を持つ再臨者との戦いが始まる。

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