第9話
シェリルは仕事の依頼で山の近くのポーロ村に来ていた。村に来てみると、人の姿が無く、生活音が全く聞こえてこない。畑に使う仕事道具は道に捨てられ、焼け焦げた犬の屍骸が道の真ん中に集められている。すると、ある一つの民家の扉が半開きになっており、シェリルはその民家の中に入っていく。中は静寂に包まれており、奥の方の暗闇に隠れている一人の男性を見つける。男性の表情は暗闇でよく見えないが、ただじっとシェリルの方を見ていた。
「少し聞きたい事がある。この村で最近おかしな事は起きなかったか?」
男は無言のままだ。
「この家の中は暗いな。少し朝日でも浴びてみろ。」
シェリルは窓のカーテンを開き、部屋の中に日の光を入れる。日の光によって男性の姿がはっきり見え、朝日に照らされた男の表情はまるで狂犬のように狂ったものだった。
力強く噛み締めている歯の間からは涎と泡が止まる事なく吹き出し続け、目は血走ったように充血している。
「ま、そんな顔じゃ闇に紛れたくなるかもな。」
呆然と立ち尽くしていた男性が突然走り出し、シェリルに向けて腕を豪快に振った。それをシェリルは軽く受け止め、男性を壁の方へと投げ飛ばした。男性の背中から骨が折れる音が聞こえたが、男性は痛みを感じていないのか、尚も立ちあがり、またシェリルに襲い掛かってくる。
シェリルは回し蹴りで男性の頭部を三回転させ、男性は糸が切れたようにその場に倒れていった。足で倒れている男性を小突いて死亡を確認した後に、携帯でレオに連絡をとる。
「・・・レオか?とりあえず今回も依頼は本当のようだ。村の住人の一人が狂人と化していた。」
『その男はどうした?』
「殺した。だが村の活気の無さから、まだこんな風に変わってしまった奴らがいるかも。恐らく寄生型の変異体だと思う。」
『寄生型か・・・まだ本体が残っているといいが。』
「村に滞在して情報を得ようとしてたんだが、こりゃ迅速に対処しないとな。」
『分かった、何かあれば・・・お前なら心配いらんな。』
そう言って連絡が切れてしまう。携帯をしまうと、シェリルは死んだ男性の衣類を剥ぎ、どこから寄生したのかを観察し始めた。
服を剥いですぐに、男性の腹部に無数のイモムシに似た虫が生えているのを見つけた。シェリルはキッチンに移動し、テーブルに置いてある水が入ったコップにポケットから取り出した小型の筒状を開け、中に入っていた青い液体を一滴落とした。
すると、何も入っていなかったコップの底から粒状の卵が現れる。
「これか。井戸の水に卵を紛れ込ませ、人の体内に入り込み、自身を増やす。一人が十人に、十人が百人に・・・。」
シェリルは暖炉に火を入れてコップごと投げ入れ、タバコに火を点けながら民家から出ていく。
外に出ると、さっきまで人一人いなかった周囲には、民家の男性と同じく変わり果てた住人達がシェリルを睨んでいた。
「好戦的で助かったよ。変異体の前に、あんたらを片付けるとするか。」
タバコを口に咥えたまま、剣を引き抜くと、屋根から襲い掛かってきた村人の体を真っ二つにし、村人達へと歩み寄っていく。そんなシェリルに村人達は一斉に走り出してくる。
シェリルは飛び掛かってくる村人を斬り裂き、複数で襲い掛かってくる村人の上を跳んで後ろを取り、順番に首を斬り落としていく。
押し寄せてくる村人達を軽く斬り伏せていき、あれだけ大勢いた村人達を5分もしない内に制圧した。するとシェリルは村の倉庫から油を持ってきて、始めに村人に遭遇した民家と斬り殺した村人達に流して、口に咥えていたタバコを油まみれになった彼らに飛ばした。火が点いたタバコが油に引火し、村人達の死体が激しく燃え上がっていく。
「悪いなあんたら、もっと丁重に火葬するべきなんだが、生憎そんな暇無くてな。」
燃えがる火を見た後、問題の井戸へと向かい、井戸の底を覗いてみる。井戸の底は暗闇に染まっており、よく見えなかった。
「暗闇に明かりを灯しましょうってか。」
コートからボール状の機械を井戸の底へと投げ入れ、機械を作動させるスイッチを押した。すると機械から激しい光が発生し、井戸の底にいる男の姿が一瞬照らし出される。
「うぁぁぁぁぁ!!!な、なんだ!?」
野太い叫び声が井戸の底から聞こえてきたが、肝心の姿を確認出来なかったため、もう一度機械のスイッチを押した。再び激しい光が発生し、一瞬だったが今度は男の姿を視認する事が出来た。
「この光をやめろ!!!」
「え!?何だって!?」
聞こえない振りをしながらもう一度スイッチを押した。男はまた叫び声を上げ、バシャバシャと水を叩く音が響いてくる。
「この光を!!!やめろと言ったんだ!!!俺は光が苦手なんだ!!!」
「お~、そうかい!それは良い事を聞いた!」
懇願する男を無視して今度は連続でスイッチを押して光を何度も発生させる。男の叫び声は更に悲痛なものになり、我武者羅に暴れ出した。
段々面白くなってきたシェリルだったが、すぐに冷静になり、変異体かどうかの確認をする。
「一応確認だけど、あんた変異体か?」
「そういうあんたは厄介屋か!俺達を殺しまくる道徳も無いサディストで頭が狂った精神異常者共め!!!」
「ははは、面白いな。」
ニカッと笑顔を浮かばせながら、無意識にスイッチを押す。
「うわぁ!?だからこの光はやめてくれ!?!」
「今のは笑えるジョークを言ったあんたが悪いだろ?というか、あんたはどうしてそんな所にいるんだ?」
「人にとって水は大事だ!だからこの井戸に俺の卵を入れれば、簡単に数を増やす事が出来る!」
「そいつは賢いな!で?肝心のあんたはどうして井戸から上がってこない?」
「誤解するな、決して登れなくなった訳じゃない!俺は暗闇が好きなんだ!」
「へぇ、そうかい!それじゃあ私からあんたにプレゼントをやるよ!」
そう言ってシェリルは井戸の中へ何かを投げ入れた。落ちてくる何かを掴み、変異体が確認するが、暗闇でよく見えない。シェリルは井戸から離れていき、スイッチを押した。
激しい光が暗闇を照らし、シェリルが井戸の中へ投げ入れた爆弾が変異体の目に映る。
「おい冗談だろ・・・。」
光が消え、再び暗闇に包まれていくと、爆弾が爆発し、井戸の底から大きな爆発音と共に黒い煙が上がった。
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