第4話
アイザとシェリルの二人はシェリルが住む街であるロンドへ行くために港へ来ていた。
「あの船に乗ってロンドにまで行くんだ。」
シェリルが船を指差すと、船には既に乗客達が乗り込み始めていた。
「私達も並ぼう。」
列が進んでいき、船員がチケットを確認してくる。
「チケットを見せてください。」
船員にチケットを見せ、先に進もうとするが、シェリルが背負っている剣を見て慌てて引き戻した。
「ちょ、ちょっと待て!その背中に背負ってる剣はなんだ!?」
船員がシェリルが持っていた剣について聞いてくる。
「護身用だよ。女の力じゃ自分を守ることが出来ないからね。」
「・・・見せてみろ。」
シェリルは剣を抜き、船員に渡した。剣を受け取り、船員はじっくりと剣を見ていく。
「銀の剣か。思ったよりも軽いな、握り手も滑りにくいものになってる。刃も長すぎず短すぎず丁度いい。余計な装飾もなく、シンプルな剣だな。」
「船員にしては、随分剣に興味があるな。」
「俺の実家は鍛冶屋だったんだ。昔からよく父に打たせてもらったもんだ。だが段々と稼ぎが無くなってな。稼ぐために知り合いの紹介で船員になったんだ。」
「鍛冶屋の息子が船員か。あんた名前は?」
「ロジャーだ。」
「私はシェリル。こっちは連れのアイザ。」
「・・・どうも。」
「ロジャー、安全運転で頼むよ。」
「俺じゃなく船長に言いな。」
二人が船へと乗り込もうとすると、再びロジャーが呼び止める。
「シェリル。」
「なんだ?」
「あんたの剣、いい剣だ。大事に使えよ。」
「ふっ、ああ!」
ロジャーに軽く手を振り、二人は今度こそ船の中へと入っていく。
「ねぇシェリル。」
「何?」
「シェリルって誰にでもあんな感じなの?」
「あんな感じって?」
「フレンドリーっていうか、初対面の相手でも友人みたいに。」
「よそよそしいよりはいいだろ?」
「そうだけど・・・。」
「さぁ、早く部屋に行こう。アイザも荷物置いて休みたいだろ?」
「・・・うん。」
(シェリルが誰とでもあんなに親しくするのは、なんか嫌だな。)
二人は自分たちの部屋に入り、シェリルは剣をベットの上の隅に置き、ベットに座る。
「ふ~。結構歩いたから疲れたでしょ?」
「うん、そうだね。」
アイザも荷物を置き、部屋に置いてある椅子ではなく、シェリルの隣に座る。
「なんか少しだけ揺れてるね?」
「そりゃそうだろ。海の上にいるわけだから。」
「そっか。何か不思議な感覚。」
「最初は変だと思うけど、じきに慣れてくるよ。」
「・・・ねぇシェリル。」
「ん?」
「シェリルの事、聞かせてよ。」
「私の事?」
「うん。たとえば、シェリルの仕事の事とか。」
「仕事か・・・本当は話しちゃいけないけど、もう変異体を見ちゃったし、知っておいた方がいいかもね。アイザ、私は厄介屋っていう仕事をやってるんだ。」
「厄介屋?」
「アイザの村に現れた変異体を狩るために雇われてるんだ。この仕事は極秘裏にやる必要があって、本来は住人に被害が出る前に狩るのが当たり前なんだが、今回は私のミスだ。」
教会で見た惨状を思い出し、シェリルはくやしさと申し訳なさで手をギュッと握り締めた。
その握り締めた手の上から包み込むようにアイザが両手で握り、シェリルの気持ちを和らげようとする。
「・・・ありがとうアイザ。君が一番悲しいはずなのにね。」
「・・・いつまでも、悲しんでられないから・・・それで、シェリルは何で厄介屋になったの?」
アイザの質問に、シェリルの表情が曇り始め、目は泳ぎ顔を伏せてしまう。
「何でこの仕事に、か。それは・・・実は、丁度アイザくらいの頃に、私の両親が殺されたんだ・・・変異体に。」
「シェリルも・・・私と同じ。」
「夜にね、二階の自分の部屋で寝ていたら、一階の方で物音がして、なんだろうと思って下に降りると、両親の部屋のドアが開いていたんだ。部屋を覗いてみたら、部屋には刀を持った男が血まみれで立ってて、母と父の事を聞くと、死んだと聞かされたよ。その男の足元には化け物が死んでいて、それでその男が言うには、その化け物が両親を喰ってしまったって言ってさ。」
「・・・そんな。」
「その後、親を失った私の面倒をその男が見てくれたんだ。その男ってのが厄介屋の一番の古株のレオって奴さ。」
「そのレオさんって人は、いい人ですね。」
すると先程まで曇っていた表情から一転し、突然笑いだしたシェリル。そんなシェリルに少しだけアイザは驚いてしまう。
「優しいって言葉はあいつには似合わないよ。頑固で口もあまり喋らないし、そのくせ怒ると変異体より怖い男だよ・・・ただ、私にとっては、もう一人の父親みたいなもんさ。私はあいつに命を救ってもらった恩を返すためにも、この仕事を始めた・・・けど今は、一般人のアイザを連れていく状況事態、恩を仇で返してる物だけどな。」
シェリルはアイザの頭をワシャワシャと撫でまわし、ベッドに横になって目を閉じて眠りについた。
アイザは隣で眠るシェリルの寝顔を見つめながら、彼女が自身と同じ経験をしているのが悲しくもあり、どこか嬉しい気持ちもあった。
(そっか。シェリルも化け物に両親を殺されたんだ。私と同じように・・・私と・・・同じ。)
頭の中がシェリルで一杯になり、隣で寝ているシェリルの腕に抱き着きながら、自身が眠りに落ちるその時まで、ずっとシェリルの寝顔を目に焼き付けていた。
眠りから覚めると、隣にいたはずのシェリルがいつの間にかいなくなっていた。
「シェリル?」
アイザはベットから立ち上がり、部屋を出た。外が見える窓を見ると、すっかり夜になっており、壁に付いた明かりだけが通路を照らしていた。
すると、外でシェリルが柵に寄りかかりながら夜空を見上げていたのを見つけたアイザは外に通じる扉を開け、シェリルの元へ歩み寄る。
「ここで何をしてるの?」
「アイザ・・・少し月を見ててね。」
見上げれば、数えきれない星によって輝く夜空に負けじと光り輝く満月が昇っていた。
「月と言えば昔、月に行くと言った友人がいて、自作のロケットで飛んでいった奴を思い出したよ。」
「その人は月に行けたの?」
「だといいんだけど、実際は20mも飛ばない内にエンジンが爆発。奇跡的に助かったが、全身に無数の傷が出来ちまった。けどな、そんな大けがを負っても、そいつは何一つ後悔なんかしちゃいなかった。」
「どうして?」
星から視線を移して、二人はお互いを見つめ合った。
「本当に自分がやりたかった事に気付けたんだ。私にはどういう訳かは知らないけどね。」
「自分がやりたい事に気付く・・・結果的にその人にとって大事な経験になったんですね。それで、その人は何を?」
「ああ、武器商人だ。」
「・・・結局危険な事に変わりないんだね。ふふっ。」
シェリルの友人の話で笑っているアイザを見て、シェリルも釣られて笑った。
そんな二人だけの空間を邪魔するように、ライトを手に巡回していたロジャーがふくれっ面で近づいてくる。
「危ないぞ!夜に外にいるなんて!海に落ちたら大変だぞ!この暗い中探すのは不可能に近いんだからな!とにかく、もう部屋に戻りなさい。朝方にはロンドに着くから。」
「分かったよ。じゃあ戻るかアイザ。」
「うん。」
二人が部屋に戻ろうとすると、何故かロジャーがその後をつけてくる。
「いや、何でついてくんの?」
「君たちが部屋にちゃんと戻るか監視しとかないと。」
「真面目だなぁー。大丈夫、ちゃんと戻るって。」
「いーや!ちゃんと部屋に入るまでついていくからな!」
「はいはい、分かったよ。」
二人はロジャーの監視の元、船の中に戻り、自分達の部屋に向かう。すると部屋に向かう途中、ある一室の扉が少しだけ開いていたのをアイザが目にした。
「どうしたアイザ?」
「この部屋、少し開いてる。」
アイザが扉を閉めようとしたその時、部屋の様子が少しだけ見えてしまう。
「!?」
アイザは握っていたドアノブから手を放し、慌てたように後ろに下がる。
「どうした!?」
「あ、あれ・・・!」
アイザが震えた手で扉を指差す。シェリルはゆっくりと部屋の扉を開け、部屋の中へ入っていく。
「こいつは・・・。」
勝手に他人の部屋に入っていったシェリルを叱ろうとロジャーも部屋に入ると、部屋の中の惨状に驚愕した。
部屋の中には、男が逆さ吊りに吊るされ、体中には無数の穴が開いて、そこから血が床に流れている。その姿は、まるで血抜きされているようだった。
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