神器の使い手
第14話 会議
「以上が作戦の概略となります。陛下」
レブント帝国円卓の間。
その最奥に座するイブラハム・レブント3世が顎髭を撫でる。
齢70を超える皇帝の髪は腰まで長く伸び、胸元に届く程の顎髭も加齢によって白く染まっていた。
長く生きた証である無数の皺が刻み込まれたその顔には、険しい表情が浮かんでいる。
「ふむ。犠牲はどうしても必要か?」
皇帝を中央奥に頂き、黒く巨大なU字型の卓には7人の人物が腰掛けている。
それぞれが政治や軍事の要を担う者達だ。
その内の1人、鮮やかな赤の軍服を身に着けた男に皇帝は尋ねた。
「は!かの大魔導士を確実に仕留めるには、犠牲は避けられません!」
問われた男は席から勢いよく立ち上がり、両腕を背後に回して大声でハッキリと皇帝の質問に答える。
アレイスター。
それが男の口にした大魔導師の名だ。
7年前の英雄国との戦争において、レブント帝国に煮え湯を飲ませた存在。
帝国はその戦いで3万もの兵を失っている。
それもその大魔術師一人によってだ。
それはまさに記録的大敗と言っていいだろう。
レブント帝国は、元々3つの国が一つになって生まれた国だった。
100年前、魔王の侵略によって壊滅的打撃を受けた小国が寄り集まって出来たのが帝国の始まりだ。
その成り立ち故、帝国は強い軍事力を求めた。
2度と侵略され、踏み躙られない様な強い国を作る為に。
その結果。
レブント帝国はこの100年、その強大な軍事力を背景に近隣の国を併合し続け、その国力と大陸屈指と言われるまでになっていた。
このままいけば、いずれ大陸の覇権はレブント帝国が握るのではないか?
それが大陸全体の認識と言ってもいいだろう。
だがそんな破竹の勢いに大きくブレーキをかけたのが、7年前の英雄国との戦争だ。
「中将。汚名の雪辱のため、英雄国打倒を目指す気持ちは分かります。ですが現状、多くの犠牲を出してまでする事でしょうか?それよりも同盟を結ぶ方が有意ではないかと、私は陛下に具申いたします」
やせぎすの男が、眉間に皺を寄せて口を開く。
外交を担当する彼からすれば、戦争で奪い取るという行為にたいして旨味は無い。
ましてや、再び敗れれば今度こそ帝国の権威は大きく失墜する事になる。
彼が反対するのは当然の事だった。
「それでは、我が国がサトゥに屈したと見られてしまう!」
紅い軍服の男が机に力強く拳を叩きつけた。
その衝撃で円卓全体が揺れる。
男の名はガンド・バスタール。
20年前、冒険者として
攻略者としての名声と、ダンジョンで得た神器と呼ばれる七支刀をレブント帝国に奉納した事で今の地位の足掛かりとしている。
20年近く帝国に仕えてはいるものの、言ってしまえば彼は外様だ。
ライバルを出し抜き、今以上の地位を手に入れるには大きな功績が必要だった。
その為彼が企てたのが、今回の議題であるサトゥ英雄国へのリベンジだ。
「陛下!大陸に覇を唱えるのはこのレブント帝国である事を証明し!かつより一層の軍備拡張の為にも、サトゥ英雄国との戦いは避けては通れません!そして今がその時なのです!」
「ふむ」
皇帝は再び顎髭を弄る。
英雄国に対する侵略戦争。
勝ち目のない戦いに首を縦に振る程、イブラハムも衰えてはいない。
少し前ならば、ガンドの進言は一蹴されていた事だろう。
だが今の帝国には神器の使い手がいる。
神器とは――
深淵のダンジョン。
その最奥を守る竜、ディープドラゴンを倒した際にドロップした6つの武器を指す言葉だ。
その力は余りにも巨大であり、人の手に余りある代物だった。
ダンジョン攻略者達の力を持ってさえ、真面に扱えない程に。
それ故帝国に齎された神器も長らく倉庫で埃を被る事となっていたのだが、遂にそれを扱うだけの力を持った人間が帝国に現れた。
ガンド・バスタールの息子。
レイド・バスタールがその担い手としての力を示して見せたのだ。
「陛下!どうかご決断を!」
ガンドの言葉に、皇帝は溜息を吐く。
彼の提示した作戦は、大量の犠牲と引き換えにアレイスターに魔力ぎれを起こさせ、そこに神器の使い手をぶつけ仕留めるという物だった。
過去の戦争で、アレイスターの大魔法は3発で魔力切れを起こす事が分かっている。
そして消耗した魔力のチャージには丸一日かかる事も。
それはアレイスターが3発以上大魔法を連発してこなかった事、そして翌日に再び3発の大魔法を使った事からの考察だ。
被害予想は一発6000として3発で18000。
この作戦を実行すれば、帝国は2万近い犠牲を1人の人間を仕留める為だけに消費する事になってしまう。
「ふむ。お前はアレイスターを倒せると言っているが、その確証はあるのか?」
もし本当にアレイスターを討てるのなら、2万の犠牲も惜しくはないと皇帝は考えていた。
問題は本当に討てるのかどうかだ。
大量に犠牲を出しておきながら、やはり倒せませんでしたでは話にならないだろう。
ガンドは自信満々ではあるが、皇帝は報告を聞いているだけで神器の力の程をまだ確認してはいない。
「勿論です!陛下も息子……いえ、レイド・バスタールと神器の力を目の当たりにされれば必ずや納得して頂けるはず!」
「そこまで言うならばいいだろう。まずはその力がどれ程の物か、余が直々に確認しその上で判断するとしよう」
「は!ありがとうございます!」
ガンドは大きく腰を折って頭を下げる。
その口元は歪み。
ライバルたるドレルイ中将の苦虫を噛み潰した様な顔を、横目で眺めていた。
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