第11話 迷宮

「まさか迷宮に挑むとはな。20年越しのリベンジ……か」


バルム爺さん達は順調にダンジョンを進み、迷宮に差し掛かる所まで来ていた。

迷宮はかつて爺さんが率いたパーティーが壊滅した場所だ。


バルム爺さんと、それに雇っていたポーターの1人――ま、俺なんだけど――以外はそこで命を落とし、その事に強い責任を感じた爺さんは冒険者を引退している。

以降20年間、仲間の残した家族のためにポーターとして働いてきた。


その爺さんが、最後の仕事として因縁の迷宮攻略に挑む。


「最後の花道として、当たりを引かせてやりたい所だが……」


そういった類のずるは基本しない事にしている。

爺さん達が上手く当たりルートを引く事を祈るとしよう。


迷宮にはいくつも分かれ道があった。

これが迷宮と呼ばれる由縁だ。

ただし、どのルートも最後にはゴールに通じている為、実際は迷宮でも何でもなかたりするのだが。


出現するモンスターはアシッドフロッグやポイズン・スティンガー、それにスライムだ。

スライムはゲームだと雑魚な事も多いが、迷宮に生息するものはかなり強力な力を有している。

サソリや蛙は語るまでもないだろう。


ハズレ・・・のルートで相手をするのはこの3種類だけだ。


迷宮にはもう一種類、守護者と言うべき魔物が配備されていた。


ミノタウロス。

それは人に似た四肢と、雄牛の頭部を併せ持つ巨人。

その力は新しく増設したパンデモニウムの魔物を覗けば、このダンジョンにおけるナンバー2を誇っている。


そのパワー、耐久力、どれをとっても迷宮に至るまでの魔物の比ではなく。

爺さんのパーティーを壊滅させたのも、こいつの仕業だ。

まあより正確に言うならば、引き分けた――が正解ではあるが。


実はこいつ、死にそうになると自爆する様になっている。

やばい強さに加え、更には潔く自爆迄かましてくるこいつの存在は、冒険者達にとってこの上ない危険な存在と言えるだろう。


「さて、どうなるか……」


迷宮のルートの内3分の2はミノタウロスが配備されていない。

奴と遭遇さえしなければ、爺さんを雇ったパーティーなら問題なく迷宮を抜けられるはずだろう。

だが逆にアタリを引いた場合、かなりの被害が予想される。

場合によっては、20年前の様な壊滅も十分あり得た。


だが、ミノタウロスを避けて攻略したのではリベンジとは言い難い。

爺さん達には是非とも、ミノタウロスを討伐して攻略して欲しいものだ。


「前々から不思議に思っていたのですが、何故全ルートに配備しないのでしょうか?」


「それだとルートを分ける意味が無いだろう。まあ、冒険者の運試しと言った所だ」


まあ実際は何となく当りはずれに分けただけだが、素直に話すつもりはなかった。

馬鹿っぽく聞こえるし。


「残念です」


会話の返事としては意味不明だ。

だがもし俺の心の声が聞こえてるとしたら……まあそんな訳はないか。

気のせいだろう。


バルム爺さん達は直前で休憩を挟んでから迷宮へと入って行く。

その際、前衛の1人――リーダーのゴメスと言う男――が爺さんの荷物から2枚の巨大な鉄板を取り出し、魔導士がそれに魔法をかけて一枚の盾へと変える。


それは魔法の力が籠められた、ダンジョン産のマジックアイテムだった。

人一人を優に包み込む巨大な盾。

ただ硬いだけではなく、魔法のエネルギーなども軽減する効果がそれには秘められている。


「成程、対ミノタウロス戦の切り札か」


ミノタウロスの自爆は魔法に近い物だ。

恐らく盾を使って防ぐつもりなのだろう。

遭遇した場合の備えをちゃんと用意ている様だ。


「まあ当たり前の話か」


どちらか分からない場合は、最悪のケースを想定して備える物だ。

新米なら兎も角、熟練者達は当然その辺りは弁えている。


「もっとも、衝撃で吹き飛ばされてしまっては意味はないが」


ゴメスが耐えられるかそうでないか。

その辺りが大きな勝敗の分かれ道になるだろう。

是非とも彼らとミノタウロスとの戦いを鑑賞してみたいものだ。


「この際、ずるをされては如何でしょうか」


レムが俺の心を読んだかの様に、悪魔の囁きを吹きかけて来る。

だが俺はそれを首を横に振って跳ねのけた。


「必要ない」


余り手を加えて演出が過ぎると、逆に白けてしまう。

ゲームでチートアイテム等を使い出すとすぐに飽きてしまうのと同じで、決められたルールの中で倒しむからこそ楽しいのだ。

だから俺は、冒険者達の攻略に余計な手出しはしないと決めていた。


「残念です」


こいつの「残念です」は、何に対して言っているのか分かり辛い時が多い。

まあ今回は自分の案が通らなかった事に対してだろう。


俺は小さく溜息を吐き、視線を映像へと戻した。

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