第4話 地獄のリポップ生活
「これで決まりだな……」
「な……何が?」
彼らが殺したのはほぼ間違いないと俺は思っていた。
だが殺される瞬間を見ていなかったため、間違いの可能性も0では無かったのだ。
「これはな……お前達の殺したポーター。ミゲルの母親の形見だ」
「だ、だから何なんだよ!それを渡したんだ!早く俺達を助けてくれ!」
俺の表情が変わった事に不安を覚えたのか、ゲリルが半狂乱で叫ぶ。
ギャーギャー五月蠅い奴だ。
「ああ、約束通りお前達は死なない。安心しろ」
どちらか分からないままなら、一回で終わらせるてやるつもりだったが……確定した以上、こいつらには生き続けて貰う。
「ほ、本当か!」
俺の言葉を聞いて、強牙の面々の強張った表情が若干緩んだ。
それを見て呑気な物だと鼻で笑う。
「ああ、お前達は死なない。死んでも何度でも復活するからな」
ダンジョンには死者を蘇らせるシステムが組み込んであった。
それがあるからこそ、魔物は尽きる事無く補充され続けるのだ。
――俺はそこに彼らを組み込む。
「だから喰われても大丈夫だ。幾らでも蘇る事が出来るぞ」
「な……何を言ってるんだ?」
「此処の魔物達には餌が必要だ。だがお前達5人程度じゃ、魔物の腹は――本能は満たされない。だから食べられ続けて貰う。無限に蘇り、途切れない餌として」
全員が全員口を半開きにし、ポカーンとした表情で此方を見つめる。
どうやら言っている事を上手く理解して飲み込めない様だ。
「ふ……ふ……ふざけんな!なんだそりゃ!俺達に魔物に食われ続けろってのか!!」
やはりリーダーだけあるな。
ゲリルが一番理解が早かった。
腐らず真面目に努力を続けていたなら、彼ならひょっとしたら一門の冒険者になれたかもしれない。
そう思うと実に惜しい。
「助けてくれるって約束したじゃねぇか!」
盗賊が叫ぶが、それは勝手な思い込みに過ぎない。
「死なせないとは約束したが、助けるとは一言も言っていない」
俺は最初に言った。
まあ確定しなければ一回。
確定すれば無限。
それは最初っから決めていた事である。
「そんな!なんで!!助けてくれよ!」
「駄目だね。お前らの殺したミゲルは、知り合いの息子さんでね。カリス・ノーチラスって名を知ってるか?」
「カリス・ノーチラスって……え、まさかあの勇者の?あいつが……嘘だろ……」
カリス・ノーチラス。
それはかつてダンジョンを踏破した、探索者のリーダーの名だ。
そして俺は彼女のパーティーのポーターを長らく務めていた。
「彼女は優秀な冒険者だったよ」
本当に優秀な女傑だった。
だがそんな女性も、引退後に病に侵されあっけなく亡くなっている。
本来なら、英雄たる彼女はその息子に大量の富を残すはずだった。
だが彼女の死後、周囲の亡者共にそれらは奪われ、ミゲルは施設に預けられてしまう。
それでもミゲルは腐る事無く体を鍛え、装備を整える資金と、ダンジョン内のノウハウを得るためにポーターになった。
そんな矢先の出来事だ。
彼がPKに遭い、命を落としたのは。
「そして英雄の息子だった彼は……将来有望だった」
俺の楽しみは冒険者達が頑張って苦難を乗り越え、その成長する姿を見る事だ。
ポーターの中には、ミゲルの様に色々蓄積したのち冒険者になろうと考えているものも多い。
PKは、そんな冒険者の芽を潰す行為だ。
それは即ち、俺に対する敵対行動に他ならない。
ましてやそれが知り合いの息子で、将来有望だったとなれば――
「お前達にはここで、永遠の地獄を味わってもらう」
まあ永遠と言っても、長くて数日持てばいい方だろうが。
早ければ数時間程で精神は崩壊してしまうはず。
人間の精神ってのは、そこまで強く出来てないからな。
まあその気になればそれを回復させる事も出来なくはないが、流石にそこまでする必要は無いだろう。
「じゃあな……俺はこれで失礼させて貰うよ。色々と忙しいんでね。お前さんらは精々餌としての人生を楽しんでくれ」
「ままま、待ってくれ!」
「待たない」
俺が指を鳴らすと巨大な芋虫が襲い掛かり、一瞬で5人を丸呑みする。
それを見た他の魔物達がその芋虫に襲い掛かった。
「喧嘩すんなよ。餌は幾らでもある」
俺が指さすと、芋虫の胃酸で瞬時に溶かされた強牙の面々がリポップしてくる。
「ひっひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
魔物達の歓喜の雄叫びと、泣き叫ぶ強牙の連中の悲鳴を後に、俺は早々に転移で地上へと帰った。
流石に人間が食べられまくるシーンを楽しめる程、俺も悪趣味ではないので。
「さて……返しに行くか」
俺は教会に寄り、シスターに言伝して先程回収したお守りを彼女に手渡した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここは……」
青年が目覚めると、そこはベッドの上だった。
周囲を見渡すが彼には見覚えのない場所だ。
だが窓の傍にある棚に十字架が置いてある事から、そこが教会であると言う事は理解できていた。
「教会?なんで俺はこんな所に……」
「あら、お目ざめになられたんですね。良かった」
青年が自分に何が起きたのか思い出そうとしているとドアが開き、小太りのシスターが姿を現す。
若くて美しいという表現は全く当て嵌まらない女性だったが、その笑顔は優しく。
見ていると不思議と温かい気持ちになる。
そう、それはまるで母親の様な慈愛の笑顔だった。
「あの……俺はどうしてここに……」
「覚えていられないのですか?貴方は魔王の残した深淵のダンジョンで怪我をして、教会に運び込まれたんですよ」
「俺が?」
「ええ。怪我は冒険者の方が回復させてくれたそうですけど、何故か意識が戻らないから見てやってくれと頼まれまして」
「そうだ……俺……」
シスターの話を聞いて青年は思い出す。
自身がPKに襲われて命を奪われかけた事を。
「そうか……助かったんだ……俺」
絶対に助からないと思っていた青年は、自らの幸運に感謝する。
「あれ?」
懐の内ポケットに手を入れようとして彼は気づく。
自分の服装が着替えさせられている事に。
「あの……俺の服は……」
「血で汚れて破れていたので、上着は処分させて貰いました。
「え!じゃあお守りは!?」
「お守り?ああ、ひょっとしてこれの事ですか。先程冒険者の方に忘れていたと渡された物ですけど」
そう言うと、シスターは袖から紐の通った石を取り出す。
それは間違いなく、お守りとして持ち歩いていた青年の母の形見であった。
「それです!」
シスターから受け取ると青年は両手で優しく包み込み、母への感謝の言葉を口にする。
彼は、そのお守りが自身の身を窮地より守ってくれたのだと確信していた。
だがその考えはあながち間違いではない。
一人の優れた女勇者の、その眩しいまでの人生の煌めき。
その彼女が残した残光がミテルーを動かしたのだから。
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