天才
第5話 天才
「馬鹿な!こんな馬鹿な!」
魔王が絶叫する。
彼の配下は既にすべて息絶え、玉座の間は魔物の死体で埋め尽くされていた。
「私が、私の用意した精鋭がこうも簡単に……ひっ!?」
言葉を無視して俺は奴に近づく。
それを見て魔王は悲鳴を上げた。
つまらん。
俺は手にした剣でその首を刎ね飛ばす。
予想通り、魔王は何の手応えも無い只の雑魚だった。
「あー、つまんねぇ」
俺は異世界に転生し、チート能力が与えられている。
まだ見ぬ世界。
そしてそこにいるであろう強敵との戦いを夢見ていた俺は、だが早々にその幻想を打ち砕かれてしまう。
何故なら与えられたチート能力が冗談抜きで
そのあまりの強さは凶暴な物を蟻レベルで踏み潰し、魔王の側近や当の魔王すらミジンコレベルに蹂躙してしまう程だった。
そこには無双の様な爽快感はなく、只々プチプチをだらだらと潰す様な感覚しない。
「はー、つまんねぇ……なんか面白い事でもないかな」
色々と考えた結果、自身が戦うのではなく、他人に戦わせそれを観戦すれば楽しめるのではという結論に達する。
そして俺は魔王の所有していたダンジョンを魔改造し、今日も冒険者の
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おっさん!今日も宜しく頼むぜ!」
「ちょっと、テリー!ダケさんに失礼でしょ!」
「うっせぇなエル!別にいだろ」
テリーと言う少年が今日の雇い主だ。
年のころはまだ14-5と言った所で、その表情にはまだまだあどけなさが残っている。
身長は160と高くはないが、まだまだ成長期なのでこれから伸びていく感じだろう。
髪は金のショートカット。
眼も髪と同じ色合いで、顔立ちは整っている。
成長すればきっと女性にモテる事請負だ。
いや、ひょっとしたら現状でも年上からモテているのかもしれない。
装備は皮の胸当てに、剣を腰に下げているだけと言う超が付くほどの軽装だ。
恐らくは身軽さを売りにした前衛なのだろう。
一方エルと言う少女も、年齢はテリーと年ほぼ同じぐらいだろう。
身長はテリーより少し低く、150と少しと言った所だろうか。
茶色の髪をおさげに纏め、黒く釣り気味な瞳は少し彼女を勝気に見せる。
装備は厚手のローブにとんがり帽子、その手には杖が握らていた。
魔導士としてポピュラーな装備と言える姿だ。
パーティーはこの2名だけだった。
こんな幼い二人がダンジョンに挑む。
そう考えると無謀にも思えるが、この世の中には天才という物が存在している。
そしてこの二人は間違いなくそれに分類される人間だった。
少し前に最下層の魔物の餌にした冒険者チーム強牙。
彼らもそこそこ腕の立つパーティーではあったが、もしこの少年少女と戦えば、間違いなくテリー達が勝つ事になるだろう。
それ程までに二人の才覚は優れていた。
「探索2回目にして長期滞在なんて大胆ですね」
彼らに雇われるのは2回目だ。
初めては日帰りであり、彼らにとっては初ダンジョンだった。
だが今回は一週間の予定で雇われている。
初回がかなり楽勝だったので、もっと奥へと進むつもりなのだろう。
「へへへ、俺達は天才だからな。浅瀬じゃ話になんねぇ」
「ちょっとテリー。調子に乗ってたら痛い目に見るわよ」
エルはテリーを窘めるが、自分達なら何が来ても対応できる。
そういう自負があるのは表情を見れば明らかだった。
なんだかんだ言って、彼女も自分の才能に誇りを持っているのだろう。
「それにしても、そんなに大荷物一人で持って大丈夫ですか?」
「ああ、問題ないさ」
3人分とは言え、一週間分の食料と寝袋などの雑貨品となるとかなりの量になる。
背中に背負った背嚢はパンパンに膨らみ、それでも入りきらなかった分は腰ベルトで固定するタイプの袋に詰めてある。
重さ的には70キロぐらいと言った所だろうか。
今回は長期と言う事で水は積んでいない。
飲料はエルが魔法で賄ってくれる事になている。
もし水ありなら、荷物の重量は軽く100キロ超えになっていただろう。
まあどちらにせよ、俺にとっては全く問題ない重量ではあるが。
何なら軽快にスキップ移動だって出来る。
まあやらないが。
「体を鍛えてるんですね」
「ああ、仕事だからね」
エルが感心した様に言って来る。
勿論鍛えて等はいないが、嘘も方便という物だ。
「そんな事どうでもいいから早く行こうぜ!」
テリーは早く冒険がしたくて仕方が無いのか、急かしてくる。
若いというのは本当に素晴らしい。
「もう、テリーったら……すいません。馬鹿で」
「ははは、気にしていないよ」
俺達は待たせてある馬車に乗り込んだ。
荷物が多いため、移動には貸馬車を使う。
費用は勿論テリー達パーティー持ちだ。
俺達は馬に揺られ、アグレスの南方にあるダンジョン入り口へと向かった。
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