第9話 ゴーレム

「おかえりなさいませ。ご主人様マスター


ダンジョンの心臓部に着くと、配下の女ゴーレムが俺を出迎える。

まあゴーレムと言っても、見た目は人間と大差ない造りをしていた。


髪は黒のロングを後ろで束ね、顔はまるで彫刻の様に整っている。

そして体は一言で言うなら、ボンキュッボンだった。


更にその豊満な肢体は、布面積の少ないハイレグビキニの様な服にパレオ巻いただけの格好であるため、非常にエロい。

臀部から生えた小悪魔の様な尻尾がそれを更に助長している。


ああ、言っておくけど。

このデザインはゴーレム自身が勝手にコーディネートした物だ。

最初は土人形の様な見た目だったのだが、力を与えた所、勝手に自分でこの姿へと変わってしまった。

決して俺がスケベ心からこういった形にしたわけではない。


そもそも俺には性欲がないからな。


神によって完全なる生物チーターとなった俺には、寿命という物が存在しない。

そして完全であるが故に、子孫を残す必要もなかった。

その為、性欲は著しく減退してしまっている。


「レム、何か変わった事は?」


異常が無いか尋ねた。

彼女――レムにはこの深淵の洞窟ディープダンジョンの管理のほぼ全てを任せてあった。


まあ何か異変があったのなら、彼女の方から知らせて来るので聞くまでも無かった事ではあるが、一応確認だけはしておく。


「特にございません」



因みに、彼女の名前はゴーレムのレムの部分からとってある。

適当に付けた名前にしては悪く無い名だと思う。


「そうか」


俺は中央にある、黒い大きな椅子に腰を下ろす。

ダンジョンの心臓部は半径10メートル程の円状をしており、その中央に備え付けられた椅子が俺の納まるべき場所となっていた。

まあ玉座と言っていいだろう。


俺が指を鳴らすと、形成され湾曲に走る壁面に映像が浮かび上がる。

ダンジョン内の様子が詳しく表示される360度モニターだ。

俺が指を軽くスワイプさせると、壁面に移る映像が横に滑っていく。


「大型パーティーか」


映像の一つにパーティーの姿が映し出されていた。

その中に、バルム・シーの姿がを見つける。


パーティーのメンバーは、重装を身に着けた戦士風の男が6名。

身軽な恰好のシーフ系が2名。

それに魔導士3名に神官1名の計12人パーティーだ。


1パーティーにしては明かに人数が多い。

恐らく2-3パーティーの連合だろう。


引き連れているポーターはバルム爺さんを含めて4名。

全員がかなりの量の荷物を背負っているので、相当先まで進む事を視野に入れているのだろう。


「最後の一稼ぎしたい気持ちは分かるが、偉くリスクの高いパーティーを選んだもんだ」


どれだけ入念な準備を重ねようと、ダンジョンはそれを嘲笑う可の様に冒険者達をすり潰す。

そしてそれは先に進めば進む程より顕著になって行く。


「最悪、死んでもいいって事か……」


バルムが20年もポーターを続けて来れたのは、その慎重さ故だ。

だがそれは養うべき――償うべき相手がいたからこその慎重さだった。

それがなくなった今、彼にとって自分の命はそれ程気に掛ける物では無くなってしまったのだろう。


「気になる冒険者でもおられるのですか?」


「いや、古い知り合いの最後の仕事ぶりでも見ておこうかと思っただけだ。後、肩は揉まなくていい。邪魔だ」


頼んでもいないのレムは俺の前に立ち、前かがみになって肩を揉んできた。

転生前なら谷間に視線が釘付けだったのだろうが、今の俺にとっては画面を遮る邪魔でしかない。


「あら残念」


何が残念なのやら……まあどうでもいい。

再び視線を画面に戻すと、モンスターとの戦闘が始まっていた。

パーティーはそれを苦も無くスムーズに処理する。


「連携はまあ、悪くはないな」


動きを見る限り、連携は上手く取れている様に見える。

まあまだ浅い場所で魔物が弱いため、破綻が見えないだけかもしれなが、少なくともある程度訓練を行っているのは間違いないだろう。


適当に人数を集めて奥に進もうとしている馬鹿の集団ではなさそうだ。


彼らは順調にダンジョンを進んで行く。

適時見張りを立てて休憩を取り、低階層だからと気を抜かずに慎重に事を進める様から、彼らの本気の度合いが伺える。


「優秀なパーティーだ」


テリーの様な突出した人物はいないが、それぞれがしっかりと役割を果たし機能している。

今のまま順調に進めば、余程の事がない限りパーティーが壊滅する様な事は無いだろう。


まあそのよっぽどの事が起こるのがダンジョンな訳だが。


「毎度思うのですが、人間はなぜこんなにも弱いのにダンジョンに入って来るのでしょうか?」


レムが不思議そうに聞いてくる。

ダンジョンコアを任せてある彼女の力は、かつて俺が倒した魔王より遥かに強力だ。

その彼女から見れば、人間の強さなど塵芥に等しい。

そんな弱い人間が、命をかけてダンジョンに挑む姿が不思議で仕方がないのだろう。


「まあ有体に言えば金と名誉だな」


この世界には酷い格差が存在している。

貧しい家の者は当たり前の様に餓死し、貴族の理不尽で首を飛ばされる様なケースも少なくない。


そんな理不尽な世界で手っ取り早く上を目指す方法。

それがダンジョン探索だった。


ダンジョンで一発当てれば、一生働いても手に入らない様な金が手に入る。

攻略しようものなら、その実力を買われ各国から引く手数多だ。

実際かつてダンジョンを攻略した探索者の面々は、各国で高い地位を与えられ、中には貴族位を得た物すらいる。


「そんな下らない物の為に命をかけるの出すか?哀れな生き物ですね。人間と言うのは」


「哀れか……そうかもな」


レムの人間に対する言葉は辛らつだった。

だが確かにその通りではある。

普通に暮らしていたのでは手に入らない物が、理不尽が、余りにもこの世界には多すぎる。


まあだからこそ、俺はこうやって彼らの頑張りを鑑賞できるわけだが……

もしこれが生まれ故郷の日本だったなら、こうは行かなかっただろう。


やって来るのは精々自衛隊位の物。

それも危険だと分かれば封鎖されて終了しかねない。

少なくともGホイホイに捕まるGの様に、やる気の奴が勝手にやって来るような状況は望めなかっただろう。


「私は思うのですが、彼らには優秀な指導者が必要なのではないでしょうか?マスターの様な優秀な支配者が」


「くだらん」


支配者に求められる資質など俺にはない。

確かに出鱈目な力はあるが、それだけだ。

恐怖による支配は出来ても、哀れな異世界人達を救済できるような資質は持ち合わせて等いなかった。


「残念です」


残念の意味が分からん。

つうかこいつは一体俺に何を求めてるんだ?

レムへ半眼を向けると、何を思ったか唐突に体をくねらせ衣類を脱ぎ始める。

プルンとおわん型の胸が顕わになった所で声を掛けた。


「何をやってる?」


「いやですわ。マスターが情熱的に見つめられる物ですから、しもべとしてそれにお応えしようと思いまして」


呆れて口が塞がらないとはこの事だった。

本気で言ってそうだから怖い。


「レム。俺がお前に求めるのはこのダンジョンの管理だけだ。それ以外を求めるつもりはない。服を着ろ」


別に裸でも問題ないが、人として俺に根付いた良識がそれを求めている。


「残念です」


そう言うと崩れた衣類を元に戻し出す。

だが急にその動きが止まった。


「ん?」


見るとレムの表情から先程迄の笑顔が消え、不機嫌な物へと変わっていた。

どうやら何かあった様だ。


「どうした?」


「サトゥから連絡が御座いまして」


「話せ」


サトゥと言うのは、このサトゥ英雄国の国王の名だ。

魔王討伐後、俺は魔王領を報酬として貰っていた。

そしてそこで国を興している。

ダンジョンを運営するにあたって、他国の管理下だと自由な形に出来ないからだ。

そのため自分で国を作って、周囲の環境ごとゴントロールしていた。


今の国王は、俺の子孫と言うていで国を治めている。

因みにサトゥと言うのは俺の日本名、佐藤から取った物だ。


「レブント帝国に動きがあるそうです」


「またあそこか。懲りないな」


この世界には無数のマジックアイテムが存在している。

その殆どは魔導士や錬金術師と呼ばれる者達が生み出した物だ。

だが彼らの生み出す物は、ダンジョンで取れる物に比べて遥かに品質が低い。

逆に言えば、それは強力なマジックアイテムが全てダンジョン産と言う事の表れでもある。


強力なアイテムが産出されるダンジョン。

それは他国にとって、とても魅力的な物だ。

独占出来れば相当美味しい思いを出来るだろう。

そのため、建国以来サトゥ英雄国は他国からの侵攻を度々受けていた。


まあ勿論、その全ては俺が力でねじ伏せて来た分けだが。


「まだ7年しかたっていないってのに……」


7年前、帝国は10万からの兵士を送りつけて来ている。

その際、3万人ほど一方的に魔法で吹き飛ばして大打撃を与えてやったのだが……奴らには学習能力が無いのだろうか?


それとも、何か切り札でも用意したか?


「私にお任せいただければ1週間。いえ、4日で帝国を滅ぼして見せますわ」


何言ってんだこいつは?

俺は眉根を顰める。


レムにはそこそこ強力な力を与えているので、国を亡ぼす事ぐらい容易い事だろう。

だが問題は、国から出るとダンジョンとの連携が切れてしまう事だ。

当然連携が切れればダンジョンのコントロールは出来ない。

つまりこいつの遠征中は、俺が直々にコントロールする羽目になってしまうと言う訳だ。


何で俺がそんな雑用をせにゃならんのだ?


そもそも俺は他国を滅ぼす気など更々なかった。

生かしておけば英雄候補が生まれる可能性だってあるのだ。

無駄な殺生を行なう気はない


「必要ない。攻めて来たら7年前同様、俺が適当に相手をする。そうサトゥに伝えろ」


「残念です」


ここで残念と言うと、人間を虐殺できずにと聞こえる訳だが?

ひょっとしてこいつ、殺戮衝動が強いのだろうか?


……ま、どうでもいいか。


命令を忠実にこなすのなら、残酷だろうが何だろう気にする必要は無い。

万一性質のせいで命令に逆らう様なら、その時は始末すればいいだけの事だ。


俺は視線をレムから壁面に移る映像へと戻した。

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