帝国からの冒険者

第28話 情報

「隊長!大変ですよ!」


「どうしたフィニー?」


机に向かい帝国へと送る定期報告書を作成していると、ノックもせずに扉が開かれ、金髪の女性が飛び込んで来る。

少々幼い顔つきの彼女の名はフィニー・レイア。

俺の部下だ。


「ダンジョン攻略者が出たそうです!」


「ほう……」


父の所属するパーティーがダンジョンを攻略して20年。

次は自分達が、そう思っていたが先を越されてしまった様だ。


「それも!なんと単独攻略らしいです!!」


「単独攻略?」


俺はそれを聞いて眉根を顰める。

一気に話が胡散臭くなったからだ。


父の話を聞く限り――ダンジョンの情報はかつての攻略者である父親ガンドからつぶさに聞いている――グレートドラゴンは人間が単独で倒せる様な相手とはとても思えない。

それ所か、竜宮へ辿り着く事さえ至難の業だろう。


「はぁ……そんな与太話を。君は一体どこで聞いて来たんだ」


俺は呆れてしまう。

仮にもレブント帝国に仕える騎士が、信憑性の薄い嘘に踊らされるとは嘆かわしい話だ。


まあ彼女はまだ16と若い。

その幼さ故、仕方のない事なのかもしれないが。


「いえ!与太話じゃないんです!英雄国からの正式発表なんですよ!」


「国の正式発表?それは本当の話か」


「誓って本当です!」


どうやら彼女は嘘を付いてはいない様だ。

しかし国の発表となると、単独攻略は事実という事になる。

だがそんな事が本当に有り得るのだろうか……いや、確かに可能性なら1つだけあるか。


それは神器だ。


父の所属する探究者によって、6本の神器がダンジョンより齎されている。

その内一本は父の手によって帝国へ。

それ以外の4本は他のメンバーによって他国へと渡っている。


だが1本だけ。

今現在、何処に有るのか所在の知れないものがあった。

探究者のリーダーであったカリス・ノーチラスが所有していた物だ。


他のメンバーが神器と引き換えに各国で高い地位についたのに対し、彼女は生涯国に仕える事無く、神器を個人で所有していたそうだ。

そしてその彼女の死後、遺産相続のごたごたで神器は紛失されたと聞いている。


つまり単独攻略者は間違いなく――


「神器所有者というわけか」


どういう経緯を辿ったのかは知らないが、それならば納得のできる話だった。

神器の力は強力だ。

それは使い手である俺自身が誰よりも理解していた。


まあ今は国元に有るので扱う事は出来ないが……


「はい!間違いなくそうかと!」


フィニーは右手をビシッと額に当てて、敬礼を行なう。

何故急に敬礼したのかは分からないが、まあスルーしておこう。


「所で他のメンバーはどうした?」


俺が書類を作成している間、ヴァルキリー隊――全6名――はダンジョン探索用の買い出しに出かけていた。

何故フィニーだけが帰って来たのかを疑問に思い、訪ねる。


「他の皆は、仔細をギルドで確認してます!私は兎に角、隊長にこの事をお知らせしようと思い急いで戻って来たんです!」


成程。

彼女は先触れを務めたという訳か。

結局、詳細待ちするのなら別に急ぐ必要などない気もするのだが……


まあきっとフィニーが勝手に判断してやった事なのだろう。

彼女は少し考え無しに行動するきらいがある

もう少し落ち着きを持って貰いたい物だ。


「そうか。有益な情報をありがとう、フィニー」


あえて注意はせず、感謝の言葉を口にする。

些細な事に目くじらを立てていたのでは、フィニーとはとてもじゃないがやっていけない。

何せ、彼女は少し叱るだけで激しく落ち込んでしまうからな。

扱いの難しい子だ。


だが彼女の腕は、最年少ながらもヴァルキリー隊隋一だった。

任務全うの為には上手くコントロールしていかなければならないだろう。


「俺は書類の作成がある。悪いが皆が帰って来てたら教えてくれ」


「はい!」


元気に返事をしてフィニーは部屋を出て行く。

敬礼するとしたらこのタイミングのはずなのだが、当然そんな物はなかった。

本当に困った娘だ。


「しかし、新たな攻略者か……」


最重要項目――それは神器についてだ。

攻略者が現れたという事は、新たに複数本の神器がダンジョンより齎された事を意味する。


神器は強力な力を秘めているゆえ、殆どの人間には真面に扱う事の出来ない武器だ。

だが扱う事さえできれば、それは強力な力になる。

可能な限り帝国で押さえたい所だが……その為には攻略者と接触し、直接交渉する必要があるだろう。


「まあ兎に角情報待ちか。どこの誰かが分からなければ接触のしようもないからな」


俺は机に向かって書類の作成に戻る。

彼女達が帰ってくる前に、目の前の仕事を片付けるとしよう。

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