第44話 追跡者
「さーて、次はどこに行こうかな?」
女性が鼻歌交じりに街道を歩く。
黒髪黒目。
身長は160センチ程で、頭はショートボブ。
顔立ちは整っており、化粧っ気がない少々幼い顔立ちではあるが、間違いなく美人にに分類されるだろう。
体には青いチャイナドレスを身に着け、スリットが深く入った太もも部分が凄くセクシーだ。
但し胸元は限りなく絶壁に近いため、人によっては0点を付ける事もあるだろう。
「あのさ!!用があるんだったら、さっさと姿を見せてくんない!!」
突然女性――スーメリアが立ち止まり、メガホン代わりに口に手を当てて背後に叫ぶ。
それは彼女の後を付けて来た者に対する言葉だった。
「出てこないんだったら!!このまま全力疾走で撒いちゃうよ!!」
「追いかけるのが大変そうだから、それは困るわね」
女性の高い声が響き、地面の上を影が高速で這う。
それはスーメリアの前で止まると、まるで地面から競り上がるかの様に、中から一人の女性が姿を現した。
彫刻の様に恐ろしく整った顔立ちに、長いロングの黒髪は背中辺りで束ねられ。
その顔には薄っすらと笑顔が浮かんでいる。
「凄い格好してるわねぇ」
現れた女性の体を見て、スーメリアが呟く。
その身長はスーメリアと変わらない程度だが、そのメリハリのある魅惑的な体には布面積の少ないビキニが張り付き、腰元にはパレオが撒かれているだけだった。
ここが海水浴場でなければ、間違いなく痴女に分類される格好だ。
「ん?あれ?貴方ひょっとしてダンジョンのボスだったんじゃ?」
現れた女性が深淵の洞窟で最後に戦った怪物と似ている事に、スーメリアは気づく。
サイズも違えば羽もなく、肌質も人と化け物の違いはあるが、その顔や体つきは正に瓜二つだ。
彼女がそう思うのも無理は無いだろう。
そして実際、その通りだった。
「私はミテルー様よりダンジョンの管理を預かる、レムと言います」
「ダンジョンの管理?じゃああのダンジョンって、ミテルーが作ったんだ」
「ええ、あそこはミテルー様のおもちゃ箱の様な物です」
レムが徐に片手を上げる。
すると彼女の足元から影が二つ飛び出し、スーメリアのサイドへと回り込んだ。
そしてその中から、二人の人物が姿を現した。
「なんか他にもいるなって思ってたけど、王様と王子様だったんだ」
現れたのは英雄国現国王サトゥ4世と、その息子であるケイラスだった。
その姿を見ても、スーメリアは余り驚いた様子を見せない。
彼らが人間ではない事に気づいていたため、レムの足元に隠れていた気配が2人である可能性を考慮していたからだ。
「それで?あたしへの用件を聞かせて貰えるかな?」
此処まで追跡してきた彼女達が歓談しに来たわけではない事ぐらい、当然スーメリアも理解している。
だが彼女は特に警戒した様子も見せず、笑顔で訪ねた。
それは転生者としての不死性からくる奢りであり。
少しでも戦いを楽しもうとする、戦闘狂としての側面からくる愚かさだった。
彼女にとって、不意打ちや騙し討ちは戦いのスパイスでしかないのだ。
「貴方に消えてもらいに来ました。私達の為に死んでください」
レムは用件をドストレートに返す。
これから消える相手に、嘘は必要などないと判断しての行動だ。
スーメリアを解析して得たデータから、彼女は自らの勝利に絶対の自信を持っていた。
「私達ねぇ……それってミテルーの命令って事?」
「いいえ、あくまでも此処にいる3人の考えよ」
「そっか、良かった」
レムからの返事を聞いて、彼女はニカっと爽やかに笑う。
「何が良かったのかしら?」
「ミテルー相手だと、流石に懲らしめるのは無理そうだからね」
現状、彼女とミテルーとの間には天と地ほどの実力差が存在している。
普通に戦ったのではまず勝ち目はないだろう。
いやそもそも普通所か、何をやっても戦いにすらならないのが現状だ。
それ程までに二人の間には大きな力の隔たりがあり、当然スーメリアもそれはよく理解していた。
「それに、私と同じ転生者が悪人だったらやっぱ嫌だしね。じゃ、やろうか」
スーメリアはレムに向かって拳を構える。
その眼は、強敵との戦いへの喜びに楽し気に細められていた。
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