第43話 手合わせ
「あれ!?ひょっとしてミテルー!?」
「貴様!失礼であろう!」
サトゥに連れられ、転移でやって来たスーメリアが大声を上げて俺に歩み寄る。
その肩をケイラスが掴んで止めた。
「まっさか君が私と同じ異世界人だったなんてねぇ」
彼女は肩を掴んだケイラスを気にせず引きずり、苦も無く俺の前までやって来る。
まあ下っ端ゴーレムに異世界人を止めろと言うのは酷なので、仕方が無い事だろう。
俺は彼に手で下がる様に指示し、彼女に声を掛けた。
「会った時に気づかなかったか?」
「うん、全然」
彼女は屈託のない笑顔で答える。
あほっぽい反応ではあるが、腹の内を含んだ奴よりは好感の持てる態度だ。
「所で、何でミテルーは荷物運びなんてやってるの?」
「ああ、何と言えばいいかな……要は映画を見ている感じだ。俺がダンジョン攻略をやっても簡単すぎてつまらないからな。君だってそうだろう?」
「そう?結構楽しかったよ?」
「まあ、考え方の違いか」
俺はその返答を聞いて苦笑いする。
彼女は手加減しても楽しめる様だが、残念ながら俺は手抜きで簡単に攻略できるゲームを楽しむ事は出来ない。
そもそもダンジョンは自分で作った物だ。
そこを手抜きクリアして喜ぶとか、寒いにも程がある。
「それで?俺に何か用があって会いに来たんじゃないのか?」
「同じ異世界人がいるって、神様から聞いたから。どんな人かなって思って会いに来たの」
「成程」
同郷という事で興味を持って会いに来た訳か。
「よろしくね!」
スーメリアは更に一歩近づき、左手を差し出してくる。
俺はそれを無言で握り返した。
無防備すぎる……
同郷の人間に会えて嬉しい気持ちが分からない訳でもないが、俺が危険な人物かもとは考えないのだろうか?
目の前ででニコニコと笑顔を向ける彼女は、俺の事を一切警戒していなかった。
完全に隙だらけだ。
仮に力の差が無かったとしても、これだけ緩々だと簡単に封殺出来てしまえるだろう。
それとも、殺されないからと高をくくっての行動か?
転生者である俺は基本不老不死だ。
条件が同じなら、スーメリアもきっとそうだろう。
絶対に死なないという考えから、彼女は無防備に振る舞っているのかもしれない。
だとしたら、その考えは余りにも甘すぎると言えた。
殺す事は出来なくとも、半永久的に行動を封じる手なら幾らでもあるのだから。
……ま、明確な敵対を示していない相手にそんな事をする気は更々ないが。
「用がそれだけなら、俺はこれで失礼させて貰うが」
「ええ!?」
俺自身、スーメリアにはたいして興味がなかった。
同郷同士の昔話に花を咲かせるつもりは更々ないし、観察対象にするには、彼女は余りにも強すぎる――やりたい放題無双するシーンなんか見せられてもつまらないからな。
だからと言って、ライバル視するには弱すぎて話にならない。
帯に短し襷に長しとは正にこの事だ。
「せっかく転生者同士会えたんだから、もう少し交流を……あっ!そうだ!手合わせしよう!」
彼女はまるで名案を思い付いた可の様に手を打ち、後ろに飛びのいて拳を構える。
それを見てサトゥとケイラスの表情が変わるが、俺は手で問題ないと2人に指示を出した。
「やれやれ。別に相手してやっても構わないが、単に自信を無くすだけだぞ?」
戦士は拳を合わせると、相手の事が理解出来るとか出来ないとか言う。
きっとそういう理屈の手合わせなのだろうが、それはある程度近しい実力の場合の話だ。
俺とスーメリアでは力の差が大きすぎて勝負にならないので、全く意味はないだろう。
「お!いいねぇ!そういう強い相手の方がワクワクするわ!」
戦闘民族の様な返事が満面の笑顔で返って来た。
まあ言って聞く様な奴でもなさそうだ。
俺は玉座に座ったまま、人差し指をクイクイと動かして掛かって来いと合図する。
「え!?座ったまま?」
「このままで十分だ。腕に自信があるのなら、俺を立ち上がらせて見せろ」
俺はにやりと笑って見せた。
言ってから、なんか悪の魔王とか幹部辺りが言いそうなセリフだなと気づく。
こういうのって負けフラグ何だっけか?
「む、よーし!じゃあいきなり全開で行くからね!」
そう宣言すると、彼女は突進からの回し蹴りを放つ。
俺はそれを右手一本で受け止めた。
その際に発生した衝撃で、玉座や周囲の調度品が粉々に吹き飛んでしまう。
というか部屋が半壊してしまった。
このままここで戦いを続けると、隠し部屋が滅茶苦茶になってしまうな。
さっさと勝負を付けるとしよう。
「今度はこっちの番だ」
「――っ!?」
立たせて見せろとか偉そうな事を宣言しているので、俺は玉座がある体で空気椅子状態のまま、掴んだ足を引き寄せ、彼女の顔面に拳を叩き込んだ。
スーメリアは咄嗟に両手でガードするが、それは無駄な抵抗だった。
俺の拳は両手を砕き、彼女の顔面に綺麗に炸裂する。
頭部が粉砕し、衝撃で彼女上半身が粉々に吹き飛んだ。
掴んでいた足を放り投げると、それは床に力なく転がる。
勝負ありだ。
まあ普通ならばではあるが。
彼女の下半身は膝を丸め、反動で起き上る。
傷口からは肉や骨、臓器が時間が撒き戻るかの様にみるみる回復していく。
その様はぶっちゃけグロかった。
普通の人間だった頃なら、絶対に吐いていたに違いない。
今は精神安定のスキルを発動させているので、単純に気持ち悪いだけとしか思わないが。
「ぷはー!死ぬかと思った!!」
全てが再生し終えたスーメリアが、アホみたいな感想を上げた。
再生は肉体だけではなく、彼女の身に着けていた物迄完全に復元している。
「スッゴイパワーだね!痛みで一瞬気を失っちゃったよ!」
「痛み?痛みがあるのか?」
痛みという言葉に俺は眉を顰める。
俺には一定レベルの痛みを無効化するスキルが備わっている。
当然彼女にもそれが備わっているとばかり思っていたのだが……だとしたらやり過ぎたか?
腕を切り落とした時の痛みが脳裏に蘇る。
彼女のトラウマになっていなければいいが。
「うん。私、痛みカットのスキルは使ってないの」
なんだ。
自分でオフにしているだけか、紛らわしい。
「痛みがある方が、戦ってるって実感できるからね」
本気で戦闘民族っぽい奴だ。
だが確かに、痛みが無ければ戦っている実感を得られないというのは、言われてみればその通りなのかもしれない。
無駄な痛みなど無い方が良いとばかり思っていたが、彼女の何気ない一言に俺は考えさせられる。
「じゃあ、私行くね!」
「もういいのか?」
まあ上半身吹き飛ばされて、痛みで気を失っているのだ。
これ以上続けるのは完全にドMの変態ぐらいだろう。
「うん!ミテルーがすっごく強いってわかったからね!今度の目的は武者修行の旅よ!強くなって絶対リベンジして見せるから!じゃあね!」
彼女は俺にウィンクを飛ばすと、転移魔法でさっさと部屋から出て行ってしまった。
台風のような女だ。
「監視をお付けいたしますか?」
「いや、いい」
覗き見は止めておく。
武者修行でどの程度強くなれるのかは知らんが、その成果は次に会った時の楽しみに取っておくとしよう。
案外大化けする可能性もあるしな。
「二人とも、悪いが此処の修理を頼む」
「はっ!」
俺は壊れてしまった秘密部屋の修繕を配下のゴーレム達に命じ、その場を後にしようとする。
すると一瞬ケイラスが口を開こうとするが、サトゥに睨まれ口を噤んでしまった。
何を言おうとしたのか少し気にはなったが、揉め事なら当人達同士で解決すべきだろう。
そう思い、俺は気にせずその場を後にした。
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