第34話 英雄
「わかったわ!私が何とかしてあげる!」
反乱軍のアジトで話を聞いた私は、単純明快な結論に達する。
全て皇帝が悪いと。
「ま、まてまてまて!一体どうする気だ」
椅子から立ち上がった私を、慌てた様にカーメンが止める。
「何って?勿論皇帝をぶちのめすのよ!」
私は握り拳を作り、笑って答える。
このリグレン帝国は絶対帝政であり、国の政は全て皇帝の独断で決まるという。
そして皇帝が私利私欲のためにやりたい放題やった結果、度重なる理不尽に国民は疲弊し苦しんでいるという。
ならばその皇帝をぶちのめせば全て解決する筈。
よって私はこれから、この国の皇帝をぶちのめしに行く事にする。
「じゃ、今から行って来るわ!」
「まてまてまてまて!」
ちゃんと理由を説明したにもかかわらず、何故かまたカーメンに止められてしまう。
謎だ。
「今からって、まさかそのまま城に乗り込むつもりか?」
「ええ、思い立ったら行動あるのみよ!」
私は余り頭が良くないので複雑な事情だと判断にこまったりもするが、これだけハッキリと悪が示されているなら、何も迷う必要は無い。
只突き進むのみ。
「君の腕は確かに凄いが、いくら何でも一人で乗り込むのは無理がある」
「だいじょうぶよ!私は転生者で無茶苦茶強いから!じゃ、行って来るわね!」
そう告げると私はアジトから飛び出し、城へと向かう。
皇帝の居る城は街の中心に大きな居を構えているので、一目でわかった。
歩いていくと遠回りになるので、空を飛んで門の前まで飛んでいく。
そのまま空を飛んで城の中に入る事も出来たが、それだと行儀が悪いと思い止めておいた。
やっぱり人の家を訪ねるなら、正面から行かないとね。
例えそれが革命であっても。
「何だ貴様わぎゃっ!?」
門番に槍を突き付けられたので、問答無用で殴り倒した。
女の子に槍を突き付ける様な輩には、拳で分からせてあげるのが一番だ。
何人かが出てきたので、その人達も序でにぶちのめす。
「あっ」
すると目の前で門を閉じられてしまった。
どうやら不審者だと思われてしまった様だ。
この国を救おうという正義の味方だってのに……「
「よっこらせっと」
大きな門に手を掛け、力を入れて押す。
閂のへし折れる音が響き、扉はゆっくりと開いていった。
その先に居る兵士と目が合ったのでにっこりと微笑むと、その場で尻もちをついて失禁されてしまう。
失礼しちゃうわね。
「と、止まれ!」
「止まらない!」
そのまま進むと大人数の兵士に囲まれてしまうが、私は全員をぶちのめし城の中へと突き進む。
中にも兵士がわんさかいたけど、それも適当に蹴散らした。
正直、彼ら程度の強さじゃ転生した私の敵じゃない。
私はガンガン兵士達を薙ぎ倒し、城内をくまなく探索する。
そして最後に辿り着いのが、赤い扉の奥にある謁見の間だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「私はスーメリア!正義の味方よ!」
「正義の味方だと!ふざけおって!このバーゲン・ボーゲンの必殺の槍を受けよ!」
バーゲンは片手で槍を構える。
だが穂先の角度は私というより、天井を狙っている様な感じだ。
当てる気あるのだろうか?
「ジャベリンシャワー!」
バーゲンの投げた槍は明後日――天井――に向かって飛んでいく。
「んっ?」
手槍は天井に突き刺さる直前で止まり、突然回転し始めた。
周る槍は光り輝き、そこから生まれた無数の光の刃が私に向かって降り注いで来る。
それはまさに光のシャワーともいえる攻撃だった。
「よっ!はっ!とっ!」
私はそれを素早く躱す。
別に当ってもたいして痛くはなさそうだが、受けると服とかに穴が開いてしまう。
今着ている黒のチャイナっぽい服はお気に入りなので、汚れたり破けたりするのは困る。
因みにこの服を着る為だけに、私は背中の羽根をもぎ落していた。
まあ所謂“ダイエット”の様な物だ。
女の子が気に入った服を着る為に、努力するのは当然の事だからね。
「くっ、貴様ちょこまかと!」
槍がバーゲンの手に戻る。
見ると彼の息は上がっていた。
この程度で息が上がるなんて、どうやら神器の力に振り回されている様だ。
少しは面白そうな相手かと思ったのだが、全然大した事なさそうでがっかり。
「お疲れみたいだから、さっさと終わらせてあげるわ!」
拳を構える。
一気に突っ込んで一撃で――
「舐めるな!」
バーゲンは、今度は真っすぐ私に向かって槍を投げて来た。
だが大した攻撃ではない。
私はそれを容易く躱してみせた。
「こんなの当るわ――けっ!?」
咄嗟に身を捻って躱す。
確かに躱した筈の槍が、急に曲がって私に襲い掛かって来たのだ。
再び槍が曲がり、私の元に飛んでくる。
「ははははっ!必殺必中の投げ槍からは……何人たりとも逃げる事は出来んのだ」
豪快に笑って宣言してはいるが、当のバーゲンは今の投的で力を使いきったのかその場で膝を付いている。
しんどいなら黙ってればいいのに。
飛んでくる槍を手で弾く。
だが弾いても弾いても、槍は直ぐに軌道を変えて私の元へと戻って来る。
まるでヨーヨーをしている気分だ。
「飽きた」
私は飛んでくる投げ槍の穂先を左手で掴み、右手で柄を握る。
そして槍を持ったまま両手を掲げた後、一気に手を振り下ろした。
私の膝に向かって。
「なっ!?」
ボキリと音が響き、槍は中程からへし折れる。
これでもう追尾して来る事は無いだろう。
「ば……ばかな……神器だぞ……あのグレートドラゴンを倒して手に入れた……」
「あっそ」
何か思い入れがあったのかもしれないが、私の知った事ではない。
悪人に同情する気はなかった。
私は一気に間合いを詰め、バーゲンにボディブローを喰わせる。
彼の鎧は砕け、泡を吹いて吹っ飛んでいく。
その序でに、すぐ後ろにいた金ぴか鎧も吹き飛ばしてやった。
「さあて、覚悟は出来てるわよね」
私が笑顔で指をボキボキと鳴らすと、兵士達が一歩後ろに下がる。
命を奪うつもりはないが、悪に与している以上、彼らにはそれ相応の罰を受けて貰う。
分かり易く一言で言うと、折檻という奴だ。
「何をしておる!その不届き者を始末せよ!討ち取った物には褒美を思うままにくれてやる!」
玉座に座る太った皇帝が椅子から腰を浮かし、唾を飛ばしながら叫んだ。
その声を聴いた途端、兵士達の眼の色が変わる。
欲に目を眩ませるその浅ましい姿を見て、私は溜息を吐いた。
「報酬に釣られるなんて、どうやら強めのお仕置きが必要な様ね」
兵士達は皇帝の一言でやる気を出したようだが、結果は何も変わらない。
私は彼らを問答無用でぶちのめす。
勿論少し強めにだ。
「ひっ、ひっぃぃぃぃ」
兵士や周りのお供を全て片付け、私は玉座へと迫る。
皇帝は悲鳴を上げて椅子から転げ落ち、体を震わせ恐怖の表情で私を見上げた。
「な、なにが望みだ?金か?地位か?両方くれたやるぞ。高い地位で好きに生きていける様にしてやる。だから、だから余に仕えろ」
ふざけた男だ。
本気で私がそんな物に興味があると思っているのだろうか?
「私が欲しいのは正義よ。そしてその執行」
私は笑顔で拳を皇帝の顔面へと叩きつける。
勿論、この男の横で血税を湯水のように使い贅沢に生きて来た王妃も同罪だ。
その顔面に私は拳を叩き込んだ。
2人の首根っこを掴み、私は1階へと降りていく。
そこに来ていたカーメンに2人を引き渡す為だ。
彼は混乱に乗じて、反乱軍を率いて城に乗り込んできていた。
「皇帝か……驚いたな。まさか本当に一人で城を制圧してしまうとは。スーメリア、あんた何者なんだ?」
「私?私は通りすがりの正義の味方よ」
この後、城に居なかった皇帝の息子やそれに従う貴族を制圧し、帝国はスーリグレン共和国として再出発する事になる。
共和国の名前の頭部分であるスーは、国を救った英雄である私の名前に因んでつけられた物だそうで少し気恥しかったが、まあ悪い気はしなかった。
やっぱ人間、良い事をすると気持ちいいわ。
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