第33話 革命

目の前にある、赤く大きな扉を開け放つ。

少し力を籠め過ぎたせいか、番が壊れて扉は吹き飛んでしまった。

まあ些細な事だ。

私は気にせず、広間に入って宣言する。


「お終いよ!悪党共!」


ここは城の謁見室だ。

中はかなり広く、大勢の兵士が詰めていた。

彼らは視線は必然、入り口から飛び込んできた私に集まる。


「おのれ狼藉ものめ!刀の錆にしてくれるわ!!」


先頭に立つ金ぴかの鎧を着たおじさんが、興奮しているのか唾を盛大に飛ばしながら腰の剣を引き抜いた。

その威勢は買うが、でっぷりと太った体を見る限り、真面に戦闘できる様には到底思えない。


相手にする価値無しと判断した私は、おじさんを無視して奥へと視線を向ける。


広間の奥は一段高く作られており、そこには大きな玉座が備え付けられていた。

そこには高価そうな赤い服を着た太ったおじさんが偉そうに座っており、その横にある玉座より一回り小さな席には、青いドレスを着た神経質そうなおばさんが座っている。


多分この国の皇帝とそのお妃様なのだろう。


「バルン殿。ここは私に任せて頂けませんかな」


「おお、バーゲン・ボーゲン殿。お願いいたします」


居並ぶ兵士達の中でも頭二つ抜きんでた2メートル近くある巨躯の兵士が、金ぴかデブの前に出て来た。

年齢は50位だろうか?

筋肉質――というか筋肉お化けのその男は、巨大な槍を肩に担ぎ、口の端を歪めて此方を睨む。

どうやら相当腕に自信がある様だ。


実際、この中ではこの人が一番強いのだろう。

それもダントツで。

私はそれを本能的に察知する。


「我が名はバーゲン・ボーゲン!かのディープダンジョン攻略チーム、探索者に所属していた超戦士とは私の事だ!」


ディープダンジョン?聞いた事のない名だ。

有名なのだろうか?


私がこの世界に転生してから、まだ2年しか経っていない。

しかもずっと僻地の小さな村で暮らしていて、最近大きな町に出て来たばかりの身なので、この世界については知らない事だらけだ。

だから固有名詞を言われても、私にはちんぷんかんぷんである。


「そしてこの手にある槍こそ!ダンジョンで入手した神器!投げ槍だ!」


名を聞いて、私は眉を顰めた。

神器という冠詞のスケールに対し、投げ槍という名のチープさに違和感を感じたからだ。

本当にそれが神器の名を冠する武器なら、もっといい名前は無かったのだろうかと思えて仕方がない。


「反乱軍の女兵士よ!名を名乗れ!ここまで来たその蛮勇を認め!聞いてやる!」


反乱軍?


一瞬何の事か分からなかったが、直ぐに思い出す。

自分が革命軍に味方して、王城襲撃に参加していた事を。

悪党退治に夢中でそう言えばすっかり忘れていた。


事の発端は、そう――



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「んん?」


街に着ついて大通りをぶらついていると、長い人垣の列ができていたので、興味本位で覗いてみた。

老若男女、年齢性別関係なく縄で繋がれた人達が、兵士に引っ張られていく姿が見える。


いったいあの人達に何があったのだろうか?

それが気になって、すぐ横のおばさんに尋ねてみた。


「ねぇ。あれは何をしてるの?」


「あれは……」


おばさんは一度周囲を伺ってから、私の耳元で小声で囁く。

彼らは革命軍の家族であり、これから見せしめに処刑されるのだと。


「ええ!?処刑!?それおかしくない!?」


革命軍という呼称から、国に逆らっている事は分かる。

だがそれは本人達の問題であって、家族というだけで処刑される等明らかにおかしい。


「お嬢ちゃん、声が大きいよ。国の兵士に聞かれたら、反逆罪であんたもしょっ引かれちまう」


おばさんが慌てた様に窘めようとする。

だが私は止まらない。

おかしい事をおかしいと言えない国なんて、そんな事は絶対に間違っているからだ。


私は人垣をかき分け、通りの中央に躍り出て宣言する。


「その人達を放しなさい!さもないと痛い目を見るわよ!」


私の声に行列は止まる。

兵士は元より、連れて行かれそうになっている人達迄、信じられない物を見る様な目で私を見ていた。


それを見て私は確信する。

困った時に誰かに手を差し伸べられて、それを素直に喜べずに戸惑ってしまう。

そんな人の心の在り方は絶対に間違っていると。


「貴様!反乱軍か!!」


兵士達が私を取り囲んだ。

此方は女一人だというのに、全員が抜刀している。

まあ私は特別製だから問題ないけど、女性相手にそういった行動を当たり前のようにする根性が気に入らない。

どうやら彼らには、きっついお仕置きが必要な様だ。


私は無言で突っ込み、兵士の顔面に拳を叩きつける。

勿論手加減はしていた。

でないと、頭が壁に叩きつけられたトマトみたいにぐちゃっと潰れてしまうからね。


「ぶぇっ」


拳を受けた男が鼻血を噴き出しながら吹き飛ぶ。

続いてすぐ横の兵士の懐に潜り込み、ボディブロー。

更に別の相手に回し蹴りを叩き込んで、3人目をノックダウンさせる。


「がはっ……」


「ぶふっ!」


更に4人目5人目と叩きのめす。

だが兵士達は私の動きが捉えられずにいるのか、右往左往するだけで真面な反撃すら飛んでこない。

その実力差は圧倒的だったが、私は容赦なく彼らを殴り倒した。


残るは一人。

兵士達の一番後ろにいたその男は、一人だけ鎧の胸元に紋章の様な物が刻まれているので、多分隊長か何かだろう。


「なっ!なんだ!?貴様は何なんだ!?」


「私はスーメリア!正義の味方よ!覚悟なさい!」


「正義の味方だと!?ふざけるな!」


「私は大まじめ!」


言葉と同時に男の顔面に正面から拳を叩き込んだ。

偉い立場の人間だから少しは周りの兵士達より強いかもと思ったが、そんな事は無く。

回避のかの字も見せずに拳を受けた男は、間抜け面で盛大に吹き飛んでいった。


「成敗!」


一瞬の沈黙、だがそれを消し飛ばすかの様に周囲から歓声が起こる。

やっぱり正義は気持ちがいい。


人垣の中から何人かの男の人達が飛び出して、手早く捕らわれていた人達を開放していく。

中には涙を流して抱擁する姿も。

どうやら、この人達が革命軍と呼ばれる存在の様だ。


その内の1人。

無精髭を生やし、鋭い目つきの男性が近寄って来た。


「家族を救って貰って感謝する」


「ふふ、邪魔しちゃったかな?」


この場に居るという事は、きっと連れ去られる家族を助け様としていたに違いない。

だとしたら、私の手出しは余計な物だったのかも。


「いや、君のお陰で余計な犠牲を出さずに済んだ。ありがとう」


「そう、それなら良かったわ」


「俺は革命軍に所属する、カーメンだ」


「私はスーメリアよ」


彼が左手を差し出して握手を求めて来る。

私はそれを笑顔で握り返す。


これが私と革命軍との出会いだった。

そして私は彼らに協力し、より良き国造りの為にクーデターへと参加する事になる。

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