第39話 こんにちは
「こんにちは!奇遇だね!」
人工的な場所を抜け、再び天然の洞窟っぽい場所にでる。
そこを鼻歌交じりに進んで行くと、前方で誰かが戦っているのが見えた。
私はそこに近づき、軽く片手を上げて挨拶する。
「……」
その声に男の人が振り返ったが、訝しげな表情を向けるだけで返事は返ってこなかった。
凄く大きな荷物を背負っているから、多分この人はポーターさんだろう。
戦闘にも参加していないし。
戦ってる魔物のはドラゴンっぽい。
女の人……子供っぽい子もいるかな。
が、6人。
それに男の人が1人。
計7人でドラゴンの群れと戦っていた。
凄く楽しそうだ。
私も混ぜて欲しかったけど、横取りしてはいけないと思いぐっと我慢した。
「あんた一人かい?」
「うん。あ、私スーメリアって言うの!よろしくね!」
「スーメリア……ひょっとしてあの勇者の?」
「その通り!」
この人はどうやら私の事を知っている様だ。
別に有名になる事が目的ではないが、それでもなんだか嬉しくなってしまう。
「成程。ここまで一人で来るとは、勇者の称号は伊達じゃないという訳か。しかし、あんたは富も名誉も十分得ているだろう?何故ダンジョンに?」
「ここにはね、身分証明のためにやって来たの。英雄国の王様に会いたかったんだけど、どこの誰ともわからない奴は合わせられないって言われてね。だから!グレートドラゴンってのを倒して私が勇者だって証明する事にしたの!」
「……え?そんな理由で来たのか?」
男の人はきょとんとした表情で、私の顔を見つめる。
まあ常識的に考えて、身分証明のためにダンジョン攻略する人など普通はいないから不思議に思うのも仕方無い。
「後、ダンジョン攻略が面白そうと思ったからってのもあるわ」
楽しんで身分迄証明される。
私にとってはまさに一石二鳥だった。
「ダンジョン攻略を楽しむ……か。まさに勇者にのみ許された所業だな」
「へへ、まあね~」
他の人達が必死に攻略しているのを“遊び半分で”と考えると、少し悪い気もする。
だが折角挑むのだから、楽しまなければ損だ。
自分でも少々傲慢だとは思うが、周りを気にしていても仕方がないのでマイペースでやらせて貰う。
「ミテルー!その人は!?」
戦闘を終えたのか、7人が此方へとやって来る。
その中の一番若い女の子が、私に気づいたのか駆け寄ってきた。
彼女は興味深げに私をまじまじと見つめる。
「初めまして。スーメリアよ」
「スーメリア……まさか勇者の?」
黒い目に銀色の髪色をした顔立ちの整った男の人――パーティーのリーダーっぽい人――が、驚いた様な視線を此方へと向ける。
どうやらこの人も、私の正義の武勇伝を知っている様だ。
「ええ、私がその勇者よ!」
私は自分の行動に誇りを持っている。
よって、謙遜など入れずに胸を張って彼の問いに答えた。
「成程……俺はレイド。このパーティーのリーダーを務める者だ。所で君のパーティーメンバーが見当たらない様だが、ひょっとして一人でここへ?」
「ええ、一人よ。この国に来たばかりで知り合いとかもいないしね」
まあ仮にいたとしても、ダンジョン探索は結局一人だったろうが。
「え?一人なの!?」
私の答えに、女性6人の顔に驚きが広がる。
どうやら一人でダンジョンに入るのは余りポピュラーではないらしい。
ただリーダーのレイドって人だけは、そんなに驚いてはいない様に見えた。
この人結構強そうだし、あたしの力がある程度分かっているのかもしれない。
「まさかとは思うけど、単独でグレートドラゴンへ挑むつもりなのかい?」
「そのつもりよ。証を立てないといけないしね」
「証?言っている意味は分からないが、もしよかったら我々に見学させて貰えないだろうか?君とグレートドラゴンとの戦いを」
「別にいいよ」
見られて減る訳でもなし。
私の豪快な無双を見せてあげるとしよう。
「ありがとう。感謝するよ」
手を差し出されたので、それを笑顔で握り返した。
ん?
一瞬、ポーターの男性が渋い顔をしている様に見えたのだが……気のせいだろうか?
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