第24話 竜宮

竜宮。

ドラゴンのみが徘徊するエリアであり、その最奥には最強の竜種たるグレートドラゴンが待ち受けていた。


ドラゴン達は高い耐久力とパワーを持ち、彼らの放つブレスはサラマンダーのそれを大きく凌駕する。

単純な強さのみならばミノタウロスに劣るが。

単独行動のミノタウロスとは違い、ドラゴンは基本徒党を組んで行動する習性を持っているため、その驚異度は彼らの方が遥かに高いと言えるだろう。


かつての最難関であるこの場所に辿り着いたチームは全部で3つ。


1つは20年前に完全攻略を果たした探索者。

もう一つは、それよりも30年前にこの領域に辿り着き、無理をして全滅したレイブン。

そして最後は、今から6年前に辿り着いた裂戦というチームだ。

烈戦に関しては全滅こそしていないが、ドラゴンとの戦闘で半数以上が命を落とした為、解散となっている。


これら3つのチームに共通して言えるのは、どれも複数のパーティーが集まってできた、10人以上の大型パーティーであったという事だ。

それは裏を返せば、それだけの規模が無ければ竜宮にはたどり着けない事を意味していた。


だがそんな常識を覆す男が1人。

その名はミシェイル・トーザー。

魔王から奪ったダンジョンの変遷以降、初の単独到達者だ。


「はぁっ!」


ミシェイルの剣――銀閃が閃き、竜の前足2本を同時に刎ね飛ばす。

足を失った竜がその場で倒れ込み、彼は素早くその影に潜り込んだ。


次の瞬間、竜達の口から業火のブレスが放たれた。

だがその炎を倒した竜の体が遮る。

強靭かつ熱に強いドラゴンの体躯は同じ竜種の炎ではびくともしない。

ミシェイルはそれを盾として使う。


炎が止むと、彼は倒れているドラゴンの腹部に剣を突き立て息の根を止める。

止めを後回しにしたのは、死ぬと消滅してしまうからだ。

それでは盾に仕えない。


「ふんっ!」


再び一体のドラゴンに突っ込み、足を切断して倒れ込ませ。

それを盾としてブレスを防いでから止めを刺す。

これを数度繰り返し、ミシェイルは敵の集団を処理していく。


彼がドラゴンとの戦いで生み出したこの戦法は、他に類を見ない物だった。

単独だからこそ出来る戦法と言えるだろう。


「お見事」


彼にポーションを投げて渡した。

竜の巨体を利用して防いでいるので直撃はしていないが、ブレスの熱量は凄まじく、その放射熱だけで彼の体を焼き焦がす。

その為ミシェイルはあちこち軽度の火傷だらけだった。


「ふぅ……いったん休憩をとろう」


竜宮に入りまだ3時間程だが、ポーションを飲み干した彼は2度目の休憩を指示してくる。

相手は強力な魔物であるため、ほんの僅かなミスが死につながってしまう。

それを避ける為、ここでは適時休憩を挟みながら進んでいるのだ。


とは言え、かなりハイペースだったため既に全体の半分程は消化している。

休憩は多くとも後2-3回程度と言った所だろう。


「了解」


荷物を下ろし、中から幾何学模様の描かれた円錐を取り出した。

これは結界を張るマジックアイテムだ。

正直、ドラゴンの力なら容易く破られてしまう程度の物ではあったが、一応気休めとして張っておいた。


「よっと」


結界内に布を敷き、ミシェイルが休める様にしてから俺は周囲に落ちているドロップ品を回収する。

落ちているのは竜麟の矢ドラゴンズアロー2本とホワイトポーション1個だ。


竜麟の矢ドラゴンズアローは強力な武器で、一本で一般家庭が数年暮らせるレベルの価格をしている。

現状このアイテムの供給元はミシェイルだけであり。

バルム爺さん達がミノタウロス戦で使った矢は、彼が冒険者ギルドに売却した物を購入した物だった――ギルドは国営で、ダンジョン探索に有効なアイテムを冒険者達に優先的に販売するシステムになっている。


もう一つのドロップ品であるホワイトポーションは、一言で言うなら美容液である。


顔等に塗ると猛烈に新陳代謝が活性化し、皺やくすみがが消え、一気に20年は若返るという代物だ。

ダンジョン探索には一ミリたりとも役に立たないアイテムではあるが、貴族の夫人などには大人気で、その価格はなんと竜麟の矢ドラゴンズアローの10倍以上という頭のおかしなものだった。


因みにこのアイテムの考案者はレムだったりする。

まあどうでもいい事か。


「俺が見張ってるから寝てくれ」


「すまない。2時間程たったら起こしてくれ」


ポーターが見張りを請け負うのはよくある事なので、これはズルではない。

通常の行動の範疇だ。


眠りについたミシェイルの寝顔を見ながら考える。

グレートドラゴンに勝てたなら、その後どうにかしてパンデモニウムに行かせられない物かと。


彼は最愛の女性を蘇生させ、自分の全財産を渡して死ぬ――病気での死を受け入れる――つもりだった。


ミシェイルの資産――超高額装備類と、竜玉と共にドロップするであろう神器――があれば、どこかの国で貴族位を手に入れ、一生贅沢に暮らせる位は余裕で出来るだろう。

そのためそれさえ残せれば、自身の生存は特に必要ないと彼は考えていた。


だがそれでは俺が困る。

せっかく超有望な冒険者なのだ。

是非ともパンデモニウムに挑戦して貰いたいと言うのが、俺の本音だった。


だからなんとか考えを検めさせ、竜玉をミシェイル自身に使わせるよう仕向けたいのだが――死者すらも蘇生させるその宝玉は、生者の患う万病を快癒する効果も持ち合わせている――それをさせるには、パンデモニウムの情報開示が必須だった。


「パンデモニウムにも、グレートドラゴンが生息してるって事を知らせる事さえできればなぁ」


パンデモニウムには通常版グレートドラゴン――竜玉に居るのは複数ドロップ100%で強化されたボス仕様――がおり、倒せば確率で竜玉をドロップする様になっている。


その情報があれば彼を誘導する事は可能だろう。

だが情報の開示は攻略の手伝いに等しい。

それは自身の設けたルールを破る行為になってしまう。


「ボス版のグレートドラゴンの情報は初めっから公開していた訳だし……雑魚配置されている方も……いや、やっぱそれは駄目だな」


グレートドラゴンの情報だけは、客寄せとして初期から公開してある。

だがあれは冒険者自体を誘き寄せる為の例外中の例外だ。

何でもかんでも例外を適応してしてしまったのでは、やりたい放題と変わらない。


「なんかいい方法があればいいんだが……」


頭を捻るが、特に名案は思い付かず。

結局あっと言う間に2時間が経過してしまう。


俺は渋々ミシェイルを起こし、竜宮攻略を再開する。

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