第23話 炎の神殿
水の神殿の奥にあるゲートを抜けると、今度は炎の神殿が姿を現す。
水の次は炎という訳だ。
先程迄の様に足を水に取られる心配はもうないが、代わりにこの神殿の内部は所々から炎が噴き出しており、中は灼熱となっている。
何の対策も無く足を踏み入れれば、ほんの数分できつい熱射病にかかり命を落としてしまうだろう。
「はい」
俺は一端荷物を下ろし、特殊なポーションをミシェイルに手渡した。
耐熱ポーションだ。
飲むと体温調整の機能が強化され。
更には体感温度も劇的に下げる効果を持っている。
強靭な肉体を持つミシェイルではあるが、流石の彼もこれの補助なしではこの神殿を抜けるのは難しい。
ミシェルが手渡したポーションの蓋を開けて口にする。
続いて俺もそれを飲んだ。
俺に関しては別に必要ないのだが、一応普通のポーターのふりをしているので。
「ミテルー、荷物を燃やさない様気を付けてくれ」
「分かってるって」
俺の背負うバックパックは、燃えにくく頑丈な素材で出来ている。
とは言え、神殿から噴き出す強烈な火勢を受けると流石に燃えてしまうだろう。
そうなれば中の物は一部を除いておじゃんだ。
そういえば――
20年前の、探索者に同行していた時の事を事を思い出す。
あの時はポーターの1人が誤って荷物を燃やしてしまい、その責任からそいつが自害しそうになっていた。
それを落ち着かせて諭したのがリーダーであり、ミゲルの母親であったカリス・
ノーチラスだ。
流石にミシェイル程の腕は持ち合わせてはいなかったが、彼女は本当に優秀な冒険者だった。
「どうかしたのか?」
立ち止まっていた俺に、ミシェイルが振り返って声を掛ける。
「いや、なんでもないよ」
昔の事を思い出してしみじみするなんて、俺も年を歳をとったもんだ。
ま、120年も生きてれば当然か。
ミシェルに返事を返して、俺はその直ぐ後を追いかけた。
神殿内部には所々穴が開いており、そこから炎が噴き出す仕組みになっている。
常時噴き出している訳ではないが、逆にそれが厭らしくもあった。
常に出ていればそれを気にしながら動けるが、稀の噴出だと、戦闘に夢中になって穴の事を忘れ、突然横から炎が噴き出して火達磨になるなんて事が普通に起こり得るのだ。
目に見えている。
分かっていてもなお、危険なトラップと言えるだろう。
まあ慎重なミシェイルは、そんなミスは犯さないだろうが。
勿論俺も。
「下がっていろ」
前方から人間サイズの真っ赤なトカゲが5体程姿を現す。
サラマンダーだった。
これも妖精の名を冠してはいるが、勿論魔物だ。
吐き出す炎は広範囲を焼き尽くす。
火力特化の魔物であり、耐久力や動きは鈍い。
炎さえ対処できれば大した脅威では無いだろう。
まあその炎の対処が大変な訳だが。
特に複数に囲まれるてしまった場合等はかなり危険だ。
サラマンダー達の口が赤く輝き、大きく開かれた。
ミシェイルはその場から動かず神聖魔法を詠唱する。
「セイクリッドウォール」
クラゲのレーザー攻撃を防いだ時と同じ結界だ。
あの時は俺の為に展開したが、今度は自身の前方に発動させる。
サラマンダーは前方に固まっている為、その
サラマンダーの大きく開いた口から炎が吐き出され。視界いっぱいに灼熱の色が広がった。
それをミシェイルの展開した結界が完全に遮断して止める。
狙い通りだ。
「ふっ!」
直ぐさま間合い詰め、ミシェイルはサラマンダー達を一瞬で切り伏せる。
だが――
「ちっ!」
曲がり角からサラマンダーが半身を出している。
そいつの口からは炎が滾り、ブレスを吐きだす直前だった。
恐らくブレスで視界が途切れていた間に現れ、ブレスを吐いている仲間の動きに合わせ様としたのだろう。
サラマンダーの口から炎が吐き出された。
結界はどう考えても間に合わない。
そんな中、ミシェイルは剣を正眼に構え。
そして――炎を切り裂いた。
切られた炎はモーゼの十戒の様に二つに裂け、ミシェイルの両サイドを通り抜けていく。
「やるなぁ……」
超高速の斬撃による衝撃波。
それが炎を引き裂いた正体だ。
相当なパワーが必要とされる力技だが、ミシェイルは極限まで鍛え上げられた剣の冴えによってそれを行なって見せた。
正にあっぱれとしか言いようがない。
この想定外の驚きこそが、俺の求めていた物だ。
「ほらよ」
サラマンダーは衝撃波で頭部を吹き飛ばされ、既に死んでいる。
俺はミシェイルに近づき、ポシェットから取り出したポーションを手渡した。
炎を裂いたとはいえ、間近で炙られたのだ。
服は焦げ、むき出しの部分には軽く火傷を負っている。
「助かる」
神聖魔法を使える彼なら自分で回復する事も出来るが、軽いやけど程度ならポーションの方が手っ取り早い。
彼はポーションを飲み欲し、休む事なく先を目指す。
その後は大きな問題も無く順調に進んで行き、遂に俺達は最終エリアである竜宮へと辿り着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます