第53話 賭け

「すげぇ……あの化け物みたいなグレートドラゴン相手にいい勝負してるぜ。マジすげぇ」


レイド達とドラゴンの戦いを見て、新人のポーターが語彙力ゼロの感想を垂れ流す。

まあポーターをする様な奴は、基本お頭おつむが弱いのである程度仕方がない事だ。


「ミテルーさんは、今回はブルってないんすね」


そのままレイド達の戦闘に見入っていればいい物を、何故かもう一人が話しかけて来た。


「まあ2回目だからな」


それに対して適当に返答を返した。

レイド達に怖くて見ていないと言った手前、当然他で聞かれても俺は同じ返答を返している。

大抵の場合、それはミシェイルに口止めされていると周囲が勝手に判断してくれるのだが、中には本気で怖がって見ていなかったと思う奴もいる。


そしてこいつは後者だ。

明かに馬鹿にした様な目で俺を見てくる。


「全く、ビビってるだけで神器を貰えるなんて、羨ましい限りですよ」


どうやらポーターでありながら、報酬に神器を貰った俺が妬ましい様だ。


道中、敵意むき出しで絡んで来てたのはその為か。

そんなに神器が欲しいのなら、冒険者になって自力で手に入れろよ。

俺は止めないから。


「あーあ。ミシェイルに上手く取り入るだけで神器とか、俺が同行したかったもんだぜ」


お前だと確実に途中で置いてけぼりになるがな。

ミシェイルは走ってダンジョンを駆け抜ける。

100キロちょっとの重量で愚痴を零す様な奴じゃ、決して彼のポーターは務まらない。


「ほーんと、羨ましいっすわ」


一々相手にするのも馬鹿らしいので、俺は無言でスルーする。


それにしても、目の前でレイド達が戦ってると言うのに。まったく呑気な奴だと言わざるを得ない。

結界のせいでここが安全圏だとはいえ、いくら何でも気を抜き過ぎだ。

レイド達が負ければ、追従して来たポーターも全滅する事を――ポーターだけで竜宮入り口まで帰らなければならないため――理解していないのだろうか?


「そうだ?賭けをしません?勝った方が自分の一番大事なお宝を賭けるんですよ」


唐突に馬鹿な提案を持ちかけられる。


「このパーティーがグレートドラゴンを討伐した時、何人が生き残るか」


しかもそれは糞みたいな内容だった。

俺は思わず眉根を顰める。

折角のボスバトル鑑賞だと言うのに、この馬鹿のせいで気分が台無しだ。


「どうです?まあミテルーさんに――」


「いいぞ」


「えっ!マジっすか!?」


俺はあっさりとオーケーを返す。

放っておくと、延々喋り続けそうだったからだ。

賭けに乗れば少しは静かになるだろう。


負けても神器をくれてやればいいだけの話だしな。

もっとも、負ける気は更々ないが。


「俺は全員生存に賭ける。万一に一人でも死ねば、お前の勝ちだ」


俺はレイド達の努力と研鑽を見て来た。

彼は父親であるガンドから得た情報を何度も吟味し、細かい計算の元、討伐の準備と訓練を行っている。

十中八九、この勝負はレイド達の完勝に終わるだろう。


「お!いいっすね!その言葉、忘れないでくださいよ!」


「ああ」


視線を戻すと、丁度グレートドラゴンがブレスを吐く瞬間だった。

7人はレイドを中心に、Vの字状に整列して魔法を詠唱している。


「お!早速誰か死ぬかな!」


この状態で誰かが死んだら、恐らく7人全員死ぬ事になるのだが……こいつはどこまで馬鹿なのだろうか?


レイド達の前に巨大な光の壁が生まれる。

7人の魔力を合わせ、生み出した障壁だ。

但しその形は直角に折れ曲がっており、上から見れば3角形の形をしていた。


ブレスを正面から受け止めるのではなく、受け流す形だ。

角となる先端部分の負担が大きくなる形だが、そこはリーダーであるレイドが担当している。


「ちっ」


レイド達の障壁が見事にブレスをいなし耐えきった。

それを見てバスが舌打ちする。

やれやれ……舌打ちしたいのはこっちの方だっての。


その後レイド達は安定して戦況をコントロールし、見事にグレートドラゴン討伐を成功させる。

勿論死者は無しだ。


まあ勝負としてのハラハラやドキドキ感は無かった物の、完璧な用意と十全な戦略で敵を確実に仕留める戦いも嫌いではない。

素直に彼らの努力に賞賛を送るとしよう。


「おめでとう!見事としか言いようのない戦いだった」


バズが再び舌打ちをしていたが、俺はそれを無視して彼らの元へと向かい賛辞を贈る。

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