第13話 ズル
「相変わらず、良い腕だ」
全てを見届け、俺は呟いた。
竜麟の矢を使ったとはいえ、死亡0でミノタウロスを退けた事は驚嘆に値すると言っていいだろう。
特に最後のバルム爺さんの一突き。
勢いを殺す事無く、小さな穴を穿ったその手並みは本当に鮮やかだった。
「……」
レムがじっと俺の顔を見つめている。
どうやら気付いている様だ。
俺が
「言いたい事があるなら言え」
「マスターは全てを支配する御方。ですので、何をされ様ともそれは天の摂理に等しい事ですわ」
レムは恭しく頭を下げた。
確かにこのダンジョンにおいては俺がルールだ。
何をするのかも自由。
「そうだったな。すまん」
だが自分で決めた拘りを覆すのは、心にしこりが残る物だ。
その些細ないらつきを、傍に居るレムにぶつけてしまった自分が恥ずかしい。
「残念です」
その返しは絶対おかしいと思うが、まあいいだろう。
レムには八つ当たりしてしまったし、スルーしてやるとしよう。
俺が具体的にやったずるは、ミノタウロスのスキルを止めた事だった。
ああ、勿論自爆を止めるなんてふざけた真似はしていない。
俺が止めたのはリポップの方だ。
ミノタウロスには、死んでもその場で復活するリポップと言うスキルが備わっている。
但しその発動率は1000分の1と超低確率であり、普通ならまず発動する事のないスキルだった。
だが爺さん達は見事にそれを引き当ててしまう。
どんだけ運がねーんだよ、まったく。
まあそれを止めた訳だが――もしリポップしていたらパーティーは完全に全滅していただろう。
今までも冒険者達の命を救ったり、蘇生した事は何度もある。
だがそれはあくまで救うだけだ。
今回の様に、明確にダンジョン攻略の手助けとなる様な事はしてこなかった。
それだけはしないと決めていたんだが……つい手が出てしまった。
ま、やってしまった物は仕方ない。
次からは気を付ける様にしよう。
「さて、俺も街に帰るか」
迷宮の出口には外に繋がる転移陣が設置してある。
帰り道でミノタウロスに再度遭遇とか笑えないので、そこは冒険者達に対する俺からの優しさだ。
当然爺さん達は、それを使って既にダンジョンを脱出している。
その為、もう此処に居座る意味も特になかった。
「レム、引き続きダンジョンの管理を頼むぞ」
「お任せください」
恭しく膝を折るレムを残し、俺は街へと転移する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます