第49話 固有スキル
「森羅の祝福よ!」
エルフのキュレルが魔法を放つ。
ダンジョンの天井に巨大な魔法陣が描かれ、そこから暖かい光が降り注ぐ。
それはエルフが独自に使う、結界魔法だ。
転生者としてチート能力を手に入れた身ではあるが、こういった種族特有のスキルは俺にも扱う事が出来なかった。
まあ別のスキルと魔法を組み合わせる事で、ある程度似た様な物を生み出す事は出来るが、ここまで強力な効果を持つスキルだと、流石に再現するのは難しい。
その効果は結界内の味方の能力を大幅に向上し、敵対する者の能力を引き下げるという、
そこまで範囲は広くはないので、通常ならさっさと範囲外に逃げられてしまうだろうが、限られた空間内で戦うダンジョン戦においては、かなり有効な魔法だ。
特に、結界によって逃げ場のないグレートドラゴン戦においては、その効果は抜群と言っていいだろう。
「カイル!余り突っ込み過ぎるなよ!」
「はい!」
巨大な戦斧――ミノタウロスの持つ斧と同等のサイズ――を持つフォル・モッサが、魔法陣より姿を現したグレートドラゴンへと向かって真っすぐに突っ込んだ。
そのすぐ横をカイルが並走する。
カイル達がこの英雄国に現れて早1年経つ。
元々かなり高いスペックを誇っていたフォルとキュレル夫婦。
そしてその潜在能力からこの1年で大きく腕を上げたカイル達3人は、たった1年という短い期間で
初期の彼らの戦術は圧倒的パワーを誇る父親のフォルが前衛を務め、妻のキュレルが後方から支援でそれをサポートする。
そしてカイルは素早い身のこなしを生かし、剣と魔法で中衛を務める布陣だった。
だが今は違う。
夫婦の立ち位置こそ変わってはいないが、実力が大きく伸びた今のカイルは父親と並び前衛を務めていた。
フィジカル面では流石に父親には敵わないが、彼には素早い身のこなしと剣に魔法を宿らせる魔法剣がある。
魔法剣。
これもエルフ種族固有の魔法であり、強力な魔力を込められたその斬撃は、強力無比な一撃へと強化される。
これのお陰で、カイルのアタッカーとしての能力は、既に父親を大きく超えていると言っても過言ではないだろ。
欠点としては、持続時間がそれほど長くない事だ。
長期戦では何度も剣に魔法を掛けな直す必要があった。
だがそれも、素早く動き回りながら魔法を使えるカイルにとっては大したデメリットでは無いだろうが。
「ふん!」
前に出たカイルがグレートドラゴンの攻撃を誘い、頭上から振り下ろされた前足を華麗に回避する。
叩きつけられた足の衝撃で地面が揺れるが、そんな物はものともせずフォルがそこへ戦斧を叩き込んだ。
ドラゴンの分厚い皮膚が弾け、斧の刃がその肉へと食い込む。
だが浅い。
大したダメージは入っていないだろう。
「ぬぅ!」
大きなダメージを与えられなかった故に、フォルに素早い反撃が飛んでくる。
ドラゴンは斧を叩き込まれた前足をそのまま蹴り出したのだ。
フォルは手にした巨大な斧を、盾代わりにしてその一撃を受け止め様とする。
だが圧倒的なサイズとパワー差がある攻撃を受け止め切れる訳もなく、両足が地を抉り滑る様に、彼は後方へと大きく吹き飛ばされてしまう。
「大したもんだ」
受け止める事こそ叶わなかったとは言え、大した物だと本気で思う。
バフ・デバフの効果があるとはいえ、圧倒的パワーのドラゴンの蹴りを受けてなお倒れる事無く、遠くへ吹き飛ばされるだけで済んだのだ。
単純なパワーだけなら、間違いなくミシェイル以上だろう。
まあ彼なら、そもそも反撃の蹴りなど喰らいはしなかっただろうが。
「ぐおぉぉぉぉ!!」
グレートドラゴンが痛みから雄叫びを上げる。
蹴り足と逆の前足に、カイルの魔法剣が深々と突き刺されたからだ。
フォルに意識が向かっている一瞬の隙を突き、彼はその剣を突き立てた。
手にした剣は深々とその肉を抉り、血を噴き出させる。
吹き飛んだフォルに追撃を繰り出そうとしていたグレートドラゴンは動きを中断し、前足でカイルを小虫の様に払おうとする。
それを素早く躱し、カイルは父親の元へと駆け寄る。
「父さん!大丈夫?」
「へ!この程度問題ねぇよ!」
だがそれをフォルは片手で制した。
鼻血を垂らしたフォルはそれを拭い、にかっと笑う。
斧を盾代わりに蹴りを防いだ時に、顔に斧を強く打ち付けたのだろう。
「攻撃続行だ!」
「うん!」
カイルは途中で踵を返し、ドラゴンへと再度突っ込んだ。
フォルもそれに続く。
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