第50話 封印
「くそっ!攻撃が入らない!」
グレートドラゴンも馬鹿では無い.
何発か攻撃を喰らった所で火力に優れたカイルの攻撃を警戒する様になり、結果フォル達は攻めあぐねる事となる。
とは言え手痛い反撃を受けている訳でもないので、現状戦況は5分と5分の拮抗した物だった。
フォル一家とグレートドラゴンの戦いは、お互い決め手がなく一進一退で進む。
言うまでもないが、このままいけば軍配はドラゴンに上がる。
ボス仕様で生命力を強化されているグレートドラゴンは、疲れると言う事を知らないからだ。
全力で数時間暴れ続けても全く問題なかった。
だがフォル親子はそうもいかない。
バフの効果で体力が上がってはいるだろうが、強力なドラゴン相手の立ち回りでは、そう長くは持たないだろう。
次第に動きは鈍くなり、やがて戦況という名の天秤は大きく傾いていく事になる。
「さて、どんな切り札を見せてくれるのかな?」
当然彼らにも切り札は用意されている。
その証拠に、後衛であるキュレルは先程からその場を動かず目を閉じ瞑想していた。
恐らくエルフ固有のスキルだろう。
結界の維持で魔力を消費しているにも拘らず、彼女の魔力は逆に増大していた。
「しかし遠距離攻撃がないとはいえ、いい度胸してるな」
グレートドラゴンは必殺となるブレスと、背の翼を使った羽搏きによる突風しか遠距離攻撃を持ちあわせてはいない。
どちらもモーションが大きく、フォル達が注意を引き付けている状態なら飛んでくる心配はなないだろう。
とは言え、巨大な敵を前に堂々と瞑想などとなかなかできる物では無い。
「流石エースだけはある」
このパーティーにおける最大戦力は怪力自慢のフォルでもなければ、天才少年のカイルでもない。
勿論カイルの潜在能力が全て開化すれば話は別だが、現状では、エルフの魔導士であるキュレルこそがエースだった。
総合的な強さで見ればミシェイルには及ばないだろうが、魔導士としての能力は俺が知る中では間違いなく最強だ。
彼女がどんな切り札を見せてくれるのか、楽しみでしょうがない。
「貴方!カイル!」
キュレル瞑想を中断し、声を上げる。
それを合図に二人はドラゴンから離れ、間合いを広げた。
これ幸いにと言わんばかりにグレートドラゴンが両翼を力強く羽搏かせ、突風で3人を吹き飛ばそうとする。
「させっかよ!」
フォルが吠える。
その背後にカイルと、走って来たキュレルが滑り込んだ。
背後の2人が吹き飛ばされない様、彼は壁となって突風を耐え凌ぐ。
「ぐおぉぉぉぉ!」
突風で吹き飛ばせなかったドラゴンは大きく咢を開き、咆哮した。
その口内は赤く輝いている。
必殺の攻撃。
灼熱のブレスを吐きだすつもりだ。
だがフォル達はその場から微動だにしない。
「キュレル!頼んだぞ!」
「ええ!任せてください!」
ドラゴンがブレスを吐きだす。
それと同時にキュレルが魔法を発動させる。
それは結界魔法だった。
「森羅万象の理より、全てを遮れ!」
キュレルの手より光が放たれ、ドーム状の結界が形成される。
但しそれはフォル達の周囲にではない――グレートドラゴンの周囲にだ。
通常結界という物は対象の周囲に発生させ、外部からの攻撃を防ぐ魔法だ。
だがキュレルの放った結界の魔法は違う。
まったく逆の性質を持つそれは、結界の内部に全てを閉じ込めようと働きかける。
それ間違いなく結界の魔法であったが、限りなく封印に近い性質の物だった。
展開された結界は、吐き出された炎を遮った。
結果、封印の内部はグレートドラゴンが吐き出した灼熱の炎が出口を求めて暴れ狂う事になる。
竜種は熱や炎に対する高い耐性を持っている。
それは上位種のグレートドラゴンも当然同じだ。
だがいくら高い耐性を持っていようとも、物には限界という物がある。
グレートドラゴンの吐き出した灼熱の炎。
それも狭い範囲で暴れ狂う炎の嵐は、その許容量を遥かに超えていた。
封印に阻まれて音は外に漏れ出てこないが、もし音が聞こえていたならグレートドラゴンの上げる苦悶の雄叫びが周囲に響き渡った事だろう。
「面白い手だ」
結界を封印の様に使い、ドラゴン自らの炎で焼き尽くす。
これが彼らの
それを見て俺は感心する。
「はぁ……はぁ……」
キュレルが荒い息で、その場に膝と手をついた。
極限の魔力行使の反動だろう。
彼女がへたると同時に、グレートドラゴンを覆っていた結界は消えていく。
その中からは、全身を焼き尽くされたグレートドラゴンが姿を現した。
その姿は息も絶え絶えと言った所だが、残念ながらまだ死んではいない。
「ぐうぅぅぅ……」
苦し気に唸り声を上げ、足を震わせながらもグレートドラゴンは立ち上がる。
その足にフォルの手にした巨大な戦斧が叩き込まれた。
流石にあれで倒せるとは考えていなかったのだろう。
彼は結界の解除と同時に駆けていた。
斧は焼け焦げて脆くなった皮膚を抉り飛ばし、骨にまで達する。
だがグレートドラゴンは怯まない。
全身が焼け焦げた事で痛みが限界を突破し、逆にもう痛みを感じてはいないのだろう。
その大きな咢でフォルを狙う。
「ぬぅ……」
フォルは斧を引き抜こうとするが、その刃が思った以上に深く刺さり過ぎたせいか、引き抜くのに手こずった。
彼はここで判断を誤る。
さっさと武器を捨てればよかった物を、それを惜しんだがために致命的なミスを犯してしまった。
巨大なドラゴンを前に、獲物を失いたくないという気持ちは分からなくもないが……
「死んだな」
斧を引き抜いた時、既にフォルの眼前には大きく開かれた咢が迫っていた。
回避はもう不可能だ。
疲労でしゃがみ込む母親を心配したため出遅れたカイルが、必死に父の元へと駆けるが、鼻の差で間に合わないだろう。
まあカイルさえ生きていれば、今の弱り切ったグレートドラゴンは問題なく始末出来るだ筈。
その際に手に入る竜玉を使えばフォルは生き返る。
ちょっとしたミスはあったが、彼らの勝――
「ほぉ……」
グレートドラゴンの咢がフォルをかみ砕く直前、光が走る。
その光はカイルの手から放たれた剣が生み出した物だ。
超高速で飛来した剣は、そのままグレートドラゴンの眉間に深々と突き刺さった。
速度があったとは言え、普通の剣ではこうはならなかっただろう。
只の魔法剣でも同じだ。
カイルの放った剣には3重の魔法が付与されていた。
付与された属性は風・雷・光だ。
風が投擲された剣を高速にし、雷で貫通力を上げ、光が刀身を根元まで押し込むパワーを生み出した。
その強力な一撃は致命打となり。
グレートドラゴンは光となって消えていった。
額に刺さっていた剣は地面に落ちると同時に破砕してしまう。
ミスリル製の優秀な武器ではあったが、流石に3つの魔法を同時にかけた負荷には耐えられなかった様だ。
「カイル!」
カイルはそのまま勢いよく地面に倒れ込んだ。
そこにフォルが駆け付けた。
彼の技量と魔力では、付与魔法を複数同時にかけると言う離れ業は不可能に近い。
それを可能にしたのは父親を助けたいという強い思いだ。
その思いが瞬間的に彼の潜在能力を引き出し、そして奇跡を起こした。
当然奇跡には代償が付き纏う。
限界を超えた力を使った負荷という代償が。
「カイル!しっかりしろ!」
カイルの意識はなく、その呼吸は弱弱しい。
このままいけば、反動による衰弱で彼は命を落とす事になるだろう。
「くそっ!キュレル!何とかならないか!」
フォルは狼狽え、カイルを抱き抱えてキュレルの元へと向かう。
「そんな……生命力が枯渇しかけて……何とかしないと」
キュレルも何とかしようと、底を尽ききかけた魔力で必死に回復魔法を掛けようとする。
俺はそんな二人の横を、「何やってんだこいつら?」と冷たい視線を投げかけ通り過ぎ、奥にある竜玉を拾って戻って来る。
「これを使ってはどうです?竜玉は死者すらも蘇らす至宝。弱りきっているカイルを回復する事も出来るんじゃないですか?」
そう言って竜玉をフォルへと渡した。
彼はそれを受け取り、迷わずカイルに使用する。
使い方は簡単。
対象の上に翳し、魔力を籠めるだけだ。
因みに、使い方は手にした人間には自然と分かる仕様にしてある。
「父さん……良かった、無事だったんだね」
竜玉の光はカイルを包み込み、生命力枯渇レベルの疲労を瞬く間に全快させる。
彼は父親に抱えられている上半身を起こし、微笑んだ。
「おお、カイル!良かった!」
「わっ、父さん母さん!?」
それを見てフォルとキュレルの二人が彼を抱きしめた。
感動の結末と言いたい所だが、彼らは当然此処に至るまでに竜玉の情報も得ている。
蘇生無しなら兎も角。
竜玉をを使えば死んでも生き返らせる事が出来る以上、俺には大げさな奴らだとしか思えなかった。
まあ、別にいいけどな……
しかしこれで4組目だな、グレートドラゴンを討伐したパーティーは――転生者であるスーメリアはカウント外。
しかも内3組は、この1年以内と来ている。
「大豊作だ」
いつまでも抱き合って喜ぶ家族は放っておいて、俺は散らばっている神器を上機嫌で回収して周るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます