第41話 パンデモニウム
「強いわね」
ダンジョン内の状況、スーメリアという女が主の用意したダンジョンを苦も無く突き進む姿を見て私は呟いた。
彼女の強さは、尋常ならざるものだ。
だが同時に、それは異常な程の弱さとも言えた。
只の人間ならば賞賛すべき強さではあったが、あの方と同じ転生者と考えると、スーメリアという女は余りにも弱すぎるのだ。
今の彼女の強さは、私がマスターから頂いた力よりも少し強い程度でしかない。
残念ながらその程度では、マスターの興味を引く事は出来ないだろう。
寧ろ通常の人間よりも遥かに強い分、冒険者としての鑑賞にも向いていないと言える。
そういう意味では、我々にとって彼女は完全にゴミに等しい存在だった。
だがせっかくの転生者だ。
何かに使えない者かと、拡張したダンジョンの機能を使い――マスターが湯水の如く魔力を注いでくれているので、それを利用して色々とダンジョンに改良を加えている――彼女の事を調べあげた。
「これは……」
解析が進むと、スーメリアが転生者にしては何故弱いのかが判明する。
彼女の中には莫大な力が、潜在能力として眠っていた。
だが生まれたて――推定3歳程度――の彼女の肉体では、その潜在能力全てを引き出す事が出来ていないのだ。
まあそれを考慮したとしても、主には届かないだろうが。
だがこれは……
これだけの潜在能力があれば……
「ふふ、使えそうだわ」
私は嬉しさから口の端を歪め、配下に連絡を取った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ほっ!はっ!とりゃ!!」
光線があちこちから乱れ飛び、私はそれを素早く躱し続ける。
発射元は周囲に展開している人間サイズ程の菱形のクリスタルだ。
これらは全てこの広い空間の中央に鎮座する、1辺10メートルは有るであろう巨大な菱形のクリスタルから生み出された物だった。
それらが私の周囲を回り、引っ切り無しに光線を撃って来る。
大型のクリスタルは更に小型を生み出し、その数はどんどんと増してく。
私はそれがどこまで増えるのか、ワクワクしながら回避し続けた。
「よっと!先に進んだのは正解だったわ!」
黒いゲートを抜けた先には、山みたいな大きさの亀や芋虫の様なモンスターがうようよしていた。
中には周囲の光を完全に吸い取ってしまう小型のモンスターなんかも混ざっていたが、基本的にパワータイプの大型がメインだ。
そう言えば、普通にグレートドラゴンも混ざってたわね。
倒したボスと次のエリアで普通に戦える時点で、此処の魔物達の強さが良く分かってもらえるだろう。
兎に角、この場所は歯ごたえのある魔物のオンパレードですっごく楽しい場所だった。
「打ち止めかな?」
暫く回避し続けると、大型のクリスタルが小型を生み出さなくなってしまった。
どうやら100体が限界の様だ。
適当に何体か殴って落としてみたが、追加が出てこない事から間違いないだろう。
「んじゃ、反撃開始!激衝脚!」
周囲に飛び交うクリスタルを一個一個叩き潰すのは手間なので、広範囲攻撃で纏めて吹っ飛ばす事にする。
雨霰と周囲から降り注ぐレーザーの隙間を縫って、私は回し蹴りを繰り出した。
足から生まれた強力なエネルギーは、その軌道に沿って放射状に広がる。
衝撃に巻き込まれたクリスタルは強烈な攻撃に耐えられず、爆散して消えていった。
今ので大体3分の1が消し飛んだ。
「もう一丁!激衝脚!」
再び回し蹴りを放つ。
だが一撃目で数が減り、密度が落ちたぶん巻き込める数が少ない。
最初の半分程も倒せなせなかった。
次の一撃は更に巻き込める数が減るだろう。
必殺技で纏めて爽快に消し飛ばし切ろうかと思ったが、どうやら無理そうだ。
「しゃあない」
適当に数発連打し、敵の数がある程度減った所で個別破壊に切り替えた。
全ての小型を叩き潰す。
残すはでかいのだけとなったが、中央に鎮座したまま一切動こうとしなかった。
「ひょっとして、攻撃してこない?それとも近距離攻撃しかないとか?」
私は目と鼻の距離まで近づいてみる。
だが巨大なクリスタルは沈黙したままだ。
「入ってますかー」
コンコンと手の甲でクリスタルをノックするが、反応は全く返ってこなかった。
ひょっとして、小さなクリスタルを生み出す機能しかないのだろうか?
「取り敢えず、潰しておくかな」
ひょっとしたらダメージを与えると変形するかも?
そんな期待の元攻撃を加えるが、どうやら本気で子機を生み出す機能しかなかった様だ。
手加減しつつ3発殴った所で盛大に爆発して粉々になってしまう。
ドロップ品は、キラキラ光っている球が一つだけだった。
まあ興味ないからどうでもいいけど。
「あっけないなー、まいっか」
クリスタルが消えた後に、新たなるゲートが開いたからだ。
此処で終わりだと流石に拍子抜けだけど、先があるならまあこんな物かと思わなくもない。
「さて、次はどんな所かなー」
この先にはどんな敵が待ち受けているのか。
期待に胸躍らせながら、私はゲートを通って先のエリアへと進んだ。
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