第57話 遺品
「ふむ、これで全部か」
「マスター?これらは?」
ここはダンジョンの心臓部。
俺が生み出したテーブルの上に置いてある装備類を見て、レムが訪ねて来た。
「ミゲルの母親の遺品だ」
カリスの遺品と呼べるものは余り多くはない。
そうと呼べる物は、彼女が冒険者時代から愛用していた剣や装備類、それに神器である
質実剛健を絵にかいた様な性格の彼女は、無駄な装飾品などを一切身につけなかった。
その為、冒険者時代に手に入れた装備品以外に彼女が残した物はほぼない状態だ。
まあ遺産なら結構な額があったとは思うが、今回はミゲルのトラウマ対策用であるので其方は回収していない。
「成程。あのヘタレに、温情を与えられようと言われるのですね」
原因があってのトラウマだ。
それをヘタレと言うのは少々違うのだが、まあ説明しても仕方がないだろう。
「まあそんな所だ。俺はトラウマを取り除く様な魔法は使えないからな」
「私にお任せ頂けないでしょうか?」
「どうするつもりだ?」
「頭に強い衝撃を与えて記憶を飛ばします。失敗した場合は殺してから
「却下だ」
上手く記憶が飛ぶまで殴り続けるとか、完全に拷問じゃねぇか。
大体そんな荒い手法で、都合のいい部分だけの記憶を飛ばせるのなら苦労しない。
「残念です」
何が残念なのかは聞くまい。
だが――
「しかし……蘇生か」
だるまさんが転んだ宜しく拷問するのはあれだが、蘇生させるというアイデア自体は悪くなかった。
眠りについた死者を冒涜するのはあれだが、彼女も息子の為なら許してくれるだろう。
「実行されるのですか?」
「お前の案を実行するつもりはないぞ?」
却下したばかりなのに、それを俺が実行したら完全に頭のおかしい奴だ。
「残念です」
残念そうなレムを横目に、俺は椅子から立ち上がる。
現在の時間帯は深夜。
実行するには丁度いい時間だ。
俺は片手を上げ、魔法を発動させる。
蘇生魔法を――
◆◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇
「ん?あれ?ここはどこだ?」
寒気に体を震わせ、眼を開けるとよく分からない場所にいた。
部屋でベッドで眠っていた筈なのに、一体ここは何処なのだろうか?
混乱しつつも周囲を見渡すが、靄が掛かって辺りを見通せない。
ひょっとして夢か?
そう思い強く頬をつねってみると、痛みを全く感じなかった。
「なんだ、やっぱり夢か」
しかし変な夢だ。
周りは靄のせいで見通せず、特に何か起きる気配も無い。
そう言えば夢は潜在意識の表れと、どこかで聞いた事がある。
つまり、この靄のかかった景色は今の俺の心の現れという事だろうか?
「だったら、納得だな」
先が見えないと言う意味では、まさに今の自分にぴったりである。
これから先、努力し続ければこの靄が晴れ、果たして未来に進む事が出来るようになるのだろうか?
「今のざまじゃ、一生このままだよな」
自嘲気味に呟く。
いずれ師匠にも見限られるだろう。
その時、俺はどうすればいいんだろうか?
「まあその時は……ポーターとして生きていくしかないか」
他の仕事に就くと言う手もある。
だが出来ればダンジョンに関わっていたかった。
母の大成した場所に。
例え、自分が夢を追う事が出来なくとも……
「そのようなふざけた考えでいたのでは、何も務まりせんよ」
「!?」
急に声が聞こえ、俺は驚いて振り返る。
すると立ち昇る靄の中に、人影が見えた。
それは、鎧を身にまとった女性のシルエット。
その腰元には青く輝く剣がかけられており、俺はその剣を見た事があった。
そう、その剣はかつて母が身に着けていた剣――
「貴方は?」
母のドラゴンバスターを身に付けるこの女性は何者だろうか?
「久しぶりですね、ミゲル」
女性の声。
俺はこの声を聴いた事がある。
懐かしくも、胸を締め付けるこの声は――
その時、一陣の風が吹いた。
靄が風に流され、その中から一人の女性が姿を現す。
「あ、あぁ……」
俺はその姿に目を見開いた。
何故なら、そこにいたのは死んだはずの母。
カリス・ノーチラスだったからだ。
最強ポーターは力を隠して冒険者の冒険を見守る~え?自分は戦わないのかって?蟻んこ一々踏み潰したって面白くないでしょ? まんじ @11922960
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