第36話 身の証

「ここが深淵の洞窟ディープダンジョンかぁー」


地面から岩がせり上がり、ぽっかりと大きな口を開けていた。

町の人達が自然に出来たとは思えないと言っていたが、成程、不自然極まりない入口だ。


故郷の村を出て早1年。

南方の国々で世直しをしながら北上していくと、ある一つの話を耳にする。

それはかつて大陸を魔王の侵攻から救った英雄サトゥが、はるか遠くの異国からやって来た人間であり。

魔王討伐後、英雄国という国を興したという話を。


サトゥは日本名のさとうに違いない。

つまり、英雄国を建国したのは異世界人。


そう結論付けた私は、同胞に会うため英雄国へとやって来たのだが……



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「駄目だ駄目だ!帰れ!」


「えー、ちょっと会うだけなんだしいいじゃん」


英雄国に入った私は迷わず首都に向かい、王城を目指したわけだが。

ケチ臭い門兵に門前払いを喰らってしまう。

この人が悪人なら殴り倒して中に入るのだが……ここに向かうまでの話を聞く限り、英雄国は超ホワイト国家らしいのでそういう訳にも行かなかった。


こういう時、力でごり押しできないのは困った物だ。


「どこの誰とも分からん者を、城に入れられる訳が無いだろう!ましてや国王に会わせて欲しいなどと!」


「あ、私スーメリアって言うんだ」


「自己紹介など聞いておらん!」


「あれ?私のこと知らない?結構有名になったと思ってたんだけどなぁ」


これまで6つ……いや7つだったっけかな?

悪政に苦しむ国を、私は解放して来た。

巷じゃ女勇者なんて呼ばれているのだが、英雄国にまでその話は届いていない様だ。


「ん?スーメリア……たしか南方の国々を解放して周った勇者の名がそんな名だった様な?」


「そう!正にその勇者スーメリアが私の事よ!」


「確かに若い娘とは聞いてはいるが……胡散臭いな」


「ええ!なんでよ!?」


門兵が胡乱うろん気な眼差しで私を見つめる。

どうやら私が偽物だと疑っている様だ。

本物なのに失礼しちゃうわ。


「何でも何も、若い女など幾らでもいるだろうが。他に証明できるものがないなら騙りを疑うのは当然だろうが」


「むぅ……」


まあ確かに言う通りではある。

だが他に証明と言われても、正直困ってしまう。

救った国から何か身分証の様な物を貰っている訳ではないので、身の証を証明する事など不可能だからだ。


……いや!一つだけあった!


それは――


「私超強いんで、強さで証明するわ!」


これまで拳で国を救ってきた。

他に類を見ない、異世界人だけが持つ圧倒的強さ。

それこそが私が勇者である証明だ。


「強さで証明ぃ?お前がか?」


「そうよ!どこからでもかかって来なさい!」


「おいおい、勘弁しろよ。城の門を任せられた兵士が丸腰の女に暴力振るったなんてなったら、笑い話にもならんわ」


「大丈夫よ!私が一方的に叩きのめすから!」


別に門兵のおじさんが弱いとは言わない。

だが異世界人である私とでは、根幹が違い過ぎる。

デコピン一発でノックアウトだ。


「はぁ……やれやれ」


おじさんは頭を押さえて首を横に振る。

私の言葉をまるで信じておらず、痛い者を見る様な眼差しを送って来る。

何かムカつく。


「よし、分かった。こうしよう。この国の深淵の洞窟にグレートドラゴンって化け物がいる。そいつを倒して見せてくれ。本当に勇者だってんなら、それ位出来るだろう?」


「グレートドラゴンね……いいわ!倒してきてあげる!」


体よく追い返す理由だったのだろうが、私はその話に迷わず乗っかる。

この国へ来る途中、ダンジョンの話を聞いていた私はそっちへの挑戦も考えていたからだ。


ダンジョン攻略を楽しみ。

そのうえ身分の証明まで出来ててしまう。

まさに一石二鳥だ。


「吠え面かかせて上げるから!楽しみに待っていなさいよ!」


兵士の顔を人差し指でさし、力強く宣言した私は早速ダンジョンへと向かうのだった。


街を出て小一時間程でダンジョンの場所を知らない事に気づき、引き返したのは秘密だ。

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