第15話 戦争準備

「如何致しましょう?」


目の前で、スーツをびしっと着込んだ老紳士が膝まずく。

彼の名はサトゥ4世。

この英雄国で王を務める男だ。


勿論彼は人間ではない。

国をコントロールする役割を与えた、人型のゴーレムだ。

まあレムの親戚と言えば分かり易いだろう。


「数で押しきれると思っている様だな」


魔法を使ってレブント帝国の動きを確認する。

国境付近に集まりつつある兵の数は、ざっと10万と言った所だろうか。


数的には以前と大差ない。

前回は開幕俺の大魔法3連打を受けて敵軍は総崩れし、態勢を立て直した翌日に魔法をもう3連打叩き込んだ所で相手が白旗を上げている。


まあ前回は敵が此方の魔法連打を想定しておらず――それまでの戦争では単発しか使ってこなかった――想定外の被害に対応できなかった感じだったが、恐らく今回は被害を覚悟の上で此方へと突っ込んで来る気なのだろう。


「3-3で抑えたのは、極力無駄な被害を出さずに終わらせる為だったんだが……」


どうやら敵は、俺の魔法使用回数を3発迄と判断してしまった様だ。

その気になれば陪以上の威力の魔法を24時間撃ち続ける事も可能な訳だが、まあそんな出鱈目を想定しろと言うのは無茶な話ではあるが。


「こちらの方で対応いたしましょうか?」


「いや、いい」


「だそうよ。貴方は無駄に出しゃばらない事ね」


俺が申し出を断ると、レムが鬼の首を取った可の様に勝ち誇る。

ダンジョンの管理を任せてある彼女と、国の管理を任せてあるサトゥはライバル関係――レムからの一方的ではあるが――だった。


一応最重要項目であるダンジョンを管理するレムの方が立場は上なのだが、サトゥに対する命令権などは与えていないので、明確な差という物は存在しない。

レムはどうやらそれが気に入らない様だった。

俺にそれを言ってこず、サトゥに強く当たるのは行ってしまえば只の八つ当たりに近い。


「差し出がましい事を申し上げました」


そう言うと彼は頭を深く下げる。

気づかいによる意見なのだから、別に謝る必要は無いのだが。

優しい言葉をかけるとレムがウザ絡みする原因になるだけなので、ここは黙って頷くだけにしておいた。


「というか、何故お前が此処にいるんだ?」


俺はレムに尋ねる。


ここは王宮にある秘密の謁見室だ。

俺の姿を周りに見られない様にするために作った場所なのだが、サトゥの報告を直接聞きに来たら、何故か呼んだ覚えもないレムがこの場で控えていた。


まあダンジョンとの接続が切れない範囲で自由にしていいと言ってはいるが、態々嫌っている相手の領域に、こいつは何しに来たんだと疑問を抱かずにはいられない。


「マスターのいらっしゃる場所ならば、何処へなりとも」


返答の意味がさっぱり分からない。

相変わらず意味不明の返答が多い奴だ。


「それで宣戦布告は?」


「本日使者が参りました。色よい返答が返ってこない様なら、明後日日の出と共に攻撃を仕掛けるとの事です」


サトゥが懐から書類を取り出し、俺に手渡す。

俺はそれにざっと目を通した。


「前回と全く一緒だな」


国と国との戦争には理由が必要になる。

所謂大義名分と言う奴だ。

これは国外は元より、国内の人間を黙らせるためにも重要な事だった。


仮に大義名分などなく。

領土や利権が欲しいから攻め込みますで戦争を起こしていたのでは、周囲の国全てが敵に回ってしまうだろう。

次は我が身と考えない馬鹿はいないからだ。


また、内部の人間も権力者の欲の為だけに血を流させられていると知れば、当然その不満は大きくなる。

ある程度しっかりした大義名分りゆうがあったとしても納得できるか怪しいと言うのに、それが支配者の我が儘と知ればその怒りは相当な物になるだろう。


クーデターや内紛待ったなしだ。


「まあ7年程度で、理由が激変する訳も無いか」


深淵の洞窟は危険な場所であり、そこから産出される品々も各国のパワーバランスを崩すものである。

それを一国で管理するのは余りにも危険な行為であるため、世界のバランスを保つ意味も含めて、レブント帝国と共同で管理に当たるべし。

大陸の安寧を放棄し、自国の利益を優先してこれを拒むのであれば、我が国が正義の名の元に鉄槌を下す。


要は傘下に入るか、攻め滅ぼされるかどっちがいいという内容だった。


「まあ確かに神器級武器をある程度量産できれば――使える人間はそうとう限られるが――力で大陸統一も難しくはないからな。危険と言う判断事態は、間違ってはいないが」


それらを手に入れて大陸統一を目論んでいる国がそれを口にしても、鼻で笑うレベルでしかなかった。


「もう滅ぼされては如何でしょうか?余りにも愚かで言葉もありません」


それまで黙って控えていた若者が口を開いた。

彼の名はケイラス・サトゥ。

系譜上はサトゥの息子と言う事になっている。

勿論人を模したゴーレムだ。


顔立ちは端正で、その眼差しは涼やかだ。

王子と言う立場もあってか、死ぬ程女性にモテた。

転生前なら、きっとリア充爆発しろと歯軋りして嫉妬していた事だろう。


まあ今の俺にとってはどうでもいい事だが。


「マスターの考えも分からぬ痴れ者が!口を開くな!」


「申し訳ありません」


俺が口を開くよりも先に、レムからケイラスへの叱責が飛ぶ。

自分も同じ事を口にしていたくせに、よくそれだけ偉そうに言えるもんだ。


「残念です」


俺の冷ややかな視線に気づき、レムが何時もの口癖を口にして頭を下げる。

今回は遺憾の意に近い意味合いだろうと考察する。

まあ死ぬ程どうでもいい事だが。


「人間の数を大幅に減らすつもりはない。覚えておけ」


細かく説明するのは面倒くさいので、ざっくりした物で済ませる。

まあ何故かが気になったら、後でサトゥにでも尋ねるだろう。


「は!」


俺の言葉にケイラスは深々と頭を下げた。

表情にこそ変化はなかったが、彼の眼が屈辱の怒りを宿しているのはハッキリと見て取れた。

不穏な空気とまでは言わないが、レムに対して明確に不満の感情を抱いている様だ。


ゴーレム達には自己判断で柔軟な対応が出来る様に自我を与えているのだが、強すぎる自我も考え物だ。

まあ問題を起こす様なら始末すればいいだけの話なので、現状は放っておいても良いだろう。


「サトゥ。基本俺が相手をするが、一応国境付近に軍を配備しておけ」


「は、畏まりました」


サトゥにそれだけ伝えると、俺は早々にその場を後にする。

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