第52話 家 出
家を飛び出して川の土手の上を歩いていく。飛び出してはみたものの所持金が有るわけでも無く結局夜には帰らねばならなくなることは重々に理解している。
子供の頃から怒られてプチ家出を試みた時も、遠くまで行ってやると思いつつ飛び出すのだが、ご飯の時間になると自然と家に帰ってしまっていた。子供に自立など到底無理なのである。
「それにしても……」
「しかし、中々吹っ切れねえわな……」正直言うと俺の中での
こんな状態で渡辺直人と母親が再婚して本当に兄妹として生活が出来る自信はなかった。それこそ、あのスクープ写真ではないが禁断の愛に踏み込んでしまうかもしれない。
まあ、
「俺はそんな簡単に忘れられないんだよ……」土手の傾斜部分に寝転び腕で目を覆った。それは、日の光を遮る為にやったのか涙を拭ったのかは俺にも解らなかった。
「あら
「やあ、
「そうよ。って、他人事みたいに言ってるけど貴方も体育委員長であることを忘れてはいない?」彼女は少し目を細めて呆れている。
「……悪い、なんだか何もやる気が起きなくてさ……」なんとなく
「
「そうだな。彼女は俺との思い出を全て忘れてしまっている。でも、やっぱり俺は忘れられないんだよ。あの思い出が……、彼女が俺の事を嫌いって言ってくれたなら吹っ切れるのかもしれないけれど、俺との記憶が無いなんて……」俺はうつ向いている。
「私は脳の事とか記憶喪失のことをよく知らないけれど、そんなにピンポイントで記憶力って消えるものなのかしら。
「じゃあ、彼女が嘘をついているとか」実はその可能性を俺も考えていた。
「そこまでは言わないけれど、なんだか作為的のような気はするけどね」土手に咲いている小さな花を指先で弾いた。
「……」
「でも、叶わない恋も素敵なんじゃない。兄妹の愛なんて私はゾクゾクしちゃうわ。ご飯三杯はいけそう」彼女は熱狂的なライトノベルファンであった事を思い出した。
「馬鹿なことを言うなよ。でも
「もしも、
「よしっ、俺も家に帰るかな」彼女のお陰もあって、今回は早々に帰宅モードへと切り替わった。
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