第59話 お前っていうな!

 それはマスコミを巻き込んでの会見となった。十八年前の乳児取り違え事件。

 発覚したのは成長した乳児の血液型が両親の血液型からは生まれる筈の無い血液型である事で判明した。細かい情報は割愛かつあいされていたが、当事者が芸能人と言うこともあり、早々に身元は世間に広まってしまうことであろう。


 担当をした当時の看護師の女性は取り違えの事実を知っていたようであるがずっとそれを隠匿いんとくしていたらしい。

 

「まさか、俺と友伽里ゆかりが兄妹だったなんて思いもよらなかったぜ」そういえば幼い頃よりよく似ている兄妹みたいと言われたものだ。

 俺は自分に兄妹がいることなど母親から聞かされた事などなかったのでそのような考えに至った事など一度もなかった。

 ただ、一つ言える事はどうしても友伽里ゆかりの事を一人の女性として見る事が出来なかったということだ。もちろん嫌いと言う訳ではない。

 

 俺はお陰さまで事故のケガも改善して病院を退院し学校にも復学している。

 今日は穂乃花ほのかとひなと三人で公園に遊びに来ていた。ひなは楽しそうに公園で砂遊びをしている。考えてみれば、彼女と俺も母親が違う異母いぼ兄妹きょうだいということになる。

 

「でも、私には彼女の辛い気持ちが痛いほど解るわ。彼女が事実を知った時の絶望感が・・・・・・。もしかすると私以上にひかり君の事を好きだったのかもしれない」穂乃花ほのかは自分の体験を通して話しているようであった。

 

「そうなのかもしれないな。それに俺があの事故にあった時、友伽里ゆかりが居てくれなかったら輸血用の血液が足りなくて危なかったって言われたしな」そう、あの夜、穂乃花ほのか達から遅れて到着した彼女も念の為、血液検査を実施したそうであった。彼女の血液型はO型、彼女の両親はA型とO型であったので疑問に思った事などなかったそうだ。

 彼女が自分が俺の双子の妹であることをを知ったのは俺に大量の血液を輸血したその後であったそうだ。俺は昏睡状態だった為、後で知らされたのだが、彼女はかなりの動揺して人目もはばからずに嗚咽おえつをもらしていたそうだ。只でさえ輸血による貧血で辛そうな処に追い討ちをかけるようになってしまったようであった。俺のせいではないのだけれど、彼女の思いを考えると正直いたたまれなくなった。

 

「そうか・・・・・・、友伽里ゆかりの気持ちが解るって事は・・・・・・、そんなに俺の事が好きだったのか」ちょっと穂乃花ほのかの顔を見て優越感にひたる。

 

「ちょ、ちょっと何を言っているのよ!も、もう、知らない!」その瞬間、彼女の顔が真っ赤に紅潮した。

 

 渡辺家と友伽里ゆかりの家、両家の話し合いにより今まで通りそれぞれの子供を我が子とする事、今後必要以上に干渉しない事が約束された。病院に対してはそれ相応の責任を取ってもらうことにはなりそうだ。

 

 友伽里ゆかりはその後、海外留学をするということで俺達の前から姿を消した。旅立つ日も教えずに・・・・・・。

 彼女の母親は「察してやって・・・・・・」と一言俺に呟いた。

 

 それぞれの事情があり親も子も戸惑っていた。

 

 ただ、穂乃花ほのかの父親である渡辺わたなべ直人なおとにとっては嬉しい誤算もあるそうだ。穂乃花ほのかをいつかどこの馬の骨とも解からない奴と結婚して取られるかと気が気ではなかったそうだが、もしこのまま俺と彼女が一緒になればその心配が無くなるという事である。きっと今はその後にひなが控えている事を忘れているようであった。

 

「それで芸能活動はどうするつもりなんだ?」俺は穂乃花ほのかの今後を尋ねた。

 

「ひとまず学業専念で休業、そのままフェードアウトみたいな感じかな」ベンチの上で足をブラブラさせながら体を前後に揺らせている。なんともまあもったいない話だ。

 

「ファンが悲しまないか?」

 

「そんな事よりちゃんと勉強してよ。貴方の学力に合わせて私も受験はするけれども、それなりの努力はしてよね」言いながら俺の頬に軽いキスをしてくれた。

 

「お前って意外にかしこいからな……」俺は彼女の唇が当たった辺りを軽く指でいた。

 

「意外ってなによ!それに……、またお前って言うな!」これからもこんな日常が続けばいいなと俺は思った。

 

                                 おしまい

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ほのかなひかり。 上条 樹 @kamijyoitsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ