第20話 恥ずかしくなるじゃない
特に会話も無く、暗い夜道を歩いていく。先に行っていた二人組から、小さな
「ちょ、ちょっと、その懐中電灯を私に
「やめろよ、普通はこういうのは男が持っているものだろ!」俺は奪い取られないように必死に
「ははん、さては怖いんでしょう?暗いのが」彼女はニヤリとほほ笑んだ。
「そ、そんな訳ないだろう。わかったよ!なら、お前が持てよ!」俺は彼女にぶっきら棒に懐中電灯を渡す。
「そう、初めからそうしていればいいのよ」彼女は足元を照らす。
「おい、足元ばかり照らしていたら、前が見えないだろう。もっと前を照らせよ!」足元は明るいが余計に歩いていく先が暗くなって辺りの様子がさっぱり解からない。
「そ、そんなこと言って、足元に虫でもいたらどうするのよ!やっぱり怖いの?」
「・・・・・・・、そんなに言うならお前も俺の腕に抱きつくのをやめろよ。よっぽど怖がっているように見えるぞ」この暗い場所に移動してから、不安になったのか、彼女は俺のシャツの
正直悪い気はしなかったが、そこに突っ込むのも可哀想かと思い今まで黙っておいたのだが・・・・・・。
「こ、怖くないわよ、これは・・・・・・・、あなたでしょ!怖いから私にくっついてきて、全く、情けない!」彼女は俺の腕から体を離した。離れる瞬間に彼女の髪から甘い香りがした。
「おい、あそこに看板があるけど」暗闇の先の木に白いホワイトボードがぶら下げられている。そこには赤く大きな矢印が記載されていた。
「そういえば、途中に一か所だけ分かれ道があるから、迷わないように印を設置してあるって、桂川さんが言っていたわ」ボードの矢印を照らしながら二人は目を合わせた。
間近で目が合った事が妙に恥ずかしくて、俺は目を背けた。
「それじゃあこっちだな」俺は照れている事を誤魔化すように先導を切って矢印がさす方向を指さした。
「うん・・・・・・」えらく素直に返事をする彼女に少し驚いた。懐中電灯の薄明かりで彼女の表情を確認するとその頬が少し赤らんでいるように見えた。
また無言のまま夜道を歩いていく。
「なんだか山の方に向かっているような気がするのだけれど・・・・・・」こんな胆試しにピッタリな街道をよく見つけたものだと感心するが、一向に目的とする神社の
「もしかして道を間違えたのかな……?」
「ゲッ」「きゃー」彼女のその言葉を合図にするかのように懐中電灯の光が消えた。
「おい、どうしたんだ、なんでスイッチ消したんだ?」いきなりの暗闇で
「スイッチなんて触ってないわよ!勝手に消えたのよ!」彼女は光の出なくなった懐中電灯を俺に差し出した。
海中電灯を受け取り、スイッチのオン、オフを繰り返すが一向に点灯する兆しが無い。
「これは・・・・・・・」
「これは?」オウム返しのように彼女が口を開く。
「電池が切れているようだ」スイッチを入れたり切ったりしてみたが全く点灯する気配はなかった。あと考えられるのは電池か
「なによそれ、きちんと確認しておいてよ」なぜか俺に苦情を言う。八つ当たりか。
「いや、俺は胆試しの担当じゃねえし・・・・・・・」彼女からの非難を
「スマホはどう?スマホにライトのアプリ入れてないの?」おっ、それは名案だと思った。がしかし・・・・・・。
「いや、俺のスマホ部屋に置いてきたわ」正直、他の学生のように常習的にスマホを触る習慣が無いので不要な時は
「お前のはどうなんだよ」ここはもう
「ちょっと君。前から思っていたんだけれど・・・・・・、私の事をお前、お前って・・・・・・、あれ?」何か異変があったのか彼女の言葉が途切れる。暗くてよく見えないが、かなり慌てている雰囲気であった。
「どうかしたのか?」彼女が何を慌てているのか解らなかったが何か悪い予感がした。
「ないの!ないのよ!」かなり慌てているようだ。
「何がないんだよ」
「ここで無いって言ったら普通解るでしょう!スマホ!私のスマホが無いのよ!ポケットに入れていたはずなのに!」ここで、スマホのライトを懐中電灯の変わりにするという彼女の作戦は終了する事になる。
「お前なぁ・・・・・・」
「だから、お前って言うな!もう、なんであんたもスマホ持ってきていないのよ!コールして呼び出せば私のスマホが見つかるかもしれないのに……!」かなり激高されている様子である。お前もあんたもあまり変わらないような気がするが・・・・・・。
「落ち着けよ、明るくなってから一緒に探してやるから」
「・・・・・・、本当に?」ひとまず少し落ち着いた様子である。
「ああ、それよりもホテルに帰る道を探さないと・・・・・・」目を細めて闇の先を見ようとしたが全く見えない。
「一体どうするの?」
「そうだな。とりあえず来た道を引き返すしかないか」とりあえず解決策はそれしか思い浮かばない。
「そうね・・・・・・、でも道は解かるの?」
「まあ、なんとかなるだろう。手を出して」俺は彼女がいると思われる方向に、手を差し出した。
「な、なに?」彼女は驚いたような声を出す。
「こんな暗闇で、逸れたら解からなくなるだろう。手を繋ごう」
「えっ、あっ、そうね・・・・・・」ゆっくりと彼女の手が俺の手を握りしめる。
「おっ!」彼女の手の優しい柔らかさに少し驚く。
「な、なによ・・・・・・・、こっちが恥ずかしくなるじゃない」
「ごめん・・・・・・・」俺は開いている左手で頭を
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