第15話 不安なのよ
慌てて二人で宿泊施設に戻ると
「あっ・・・・・・」朝の出来事を思い出して気まずさと、あの感触を思い出して顔が赤くなる。またビンタされるのではないかと内申ヒヤヒヤしている。
「今朝は、ごめんなさい・・・・・・」俺の顔を見て
「い、いや、ぶつかったのは俺のほうだし、こっちこそ悪かったな」彼女の態度を見て、俺も同じように頭を下げる。どうやら、ビンタを喰らわせた事を反省している様子であった。
「私、転校してきて訳が分からなかったから、この臨海学校にとりあえず参加したんだけど・・・・・・、やっぱり知ってる人が少なくて不安なのよ」彼女が感じるほどの疎外感は無いのかと思うのだが、やはり慣れない人間だらけでナイーブになっているというところだろうか。まあ、この美しい転校生に恐縮して男子生徒達は声をかけられないでいるようだ。気安く話している俺への激しい嫉妬の視線を
「俺だって、本当は体育委員やってなければ、こんなイベントなんてスルーなんだけどな」ちょっとだけ嫌がって見せる。しかし本音を言えば、こうして彼女と話す機会が出来た事を喜んでいる自分がいる。
「そうなんだ。私だけじゃないと思うとちょっとだけ気持ちが楽になったわ」俺の言葉のどこに安心を感じたのかは解らないが、とりあえずお役に立てて光栄である。
「そういえば、ひなちゃんは大丈夫なのかい? 保育園の送り迎えとか」何か話題はないかと思案した結果彼女の娘の話になった。
「ひな?ひなは、パパが面倒を見てくれるから大丈夫よ。ああ見えて、あの子もあれでしっかりしているのよ」共有出来る話題のお陰か彼女の表情がかなり柔らかくなったような感じがした。
「でも、大変だよな。高校行きながら娘の面倒を見るって……」俺は尊敬の念を込めて言う。
「え、娘?」彼女は驚いたように目を見開く。
「ああ、ひなちゃんの面倒を見ながら学校に通うの大変だろう?」当然そういうことなのだと俺は思っている。
「……あ、そういうことか……、あはははは」彼女は、突然に笑いだした。
「ど、どうしたんだ?俺、なんか面白い事を言ったか?」なぜ笑われたのか理解出来ずに少し不機嫌になる。
「いいえ、心配してくれて有り難うね。貴方って面白いね」笑い過ぎて涙が出たのか、瞳の辺りを手で拭いながら彼女は言った。
「なにが、面白いんだ?」俺は更に不機嫌の度合いを増す。
「うーん、しばらくそのままでいいや」少し考えてから、彼女はもう一度笑った。
「何がそのままなんだ?」全くもって理解することが出来ないでいる。それについて彼女はお構い無しのようであった。
「有り難うね、本当に貴方のお陰で凄く気持ちが楽になったわ」
「なんだ、あれは……なんか感じが悪い……」結局のところ、何が面白かったのか俺には理解することは出来なかった。
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