第14話 パラダイス

「おう、ひかり!ちょっと散策さんさくでもしないか?」堂島どうじまが声をかけてくる。今回の臨海学校は自由参加であるのにコイツは自主的に参加しているようだ。夏休みに他にイベントが無いのかとお気の毒に思う。


「散策って、自由行動は今日は無いのだろう。他の委員や先生に見つかったら怒られるぞ」俺は委員らしく注意した。


「せっかく海に来たんだからさぁ。水着のギャル見たいじゃん。で、ついでに出来れば仲良くなってさぁ」どうやら彼が参加した目的は不純ふじゅんな目的のようであった。


「慌てなくても、明日海水浴の時間があるから、その時に見ればいいだろう」俺は断じて女子の水着を目的に来た訳ではない。


「お前は頭かたいなぁ、いいだろう。見に行こうよ~」何故か甘えるような口調でおねだりしてくる。


「・・・・・・仕方ねえな。ちょっとだけだぞ」言いながら、少しテンションが上がる俺がいた。


 次のミーティングの時間まで二時間弱、俺達は駆け足で近くの海水浴場に向かった。


「おお!これは!」海には褐色の肌を露出した乙女達がひしめいている。まさに、これはパラダイスであった。


「なっ、来て良かったろ!なっ!」堂島どうじまは何度も確認するように言う。


「ううう、まあ……、そだな……」俺は冷静な振りをしながらも視線は浜辺に釘付けになっていた。

 海で開放的になった女子達は、ある者は躍動感やくどうかんあふれてれる物を揺らしまくり、ある者はビーチに無防備に横たわり、美しい光景を俺達の目に焼き付けてくれる。もちろん、ビーチには男の姿もあるがそれは無視することにする。


「あら、自由行動は明日からじゃなくて?」背後から聞きなれた声がする。恐る恐る、ギリギリとゼンマイのおもちゃのように振り返るとそこには友伽里ゆかりと生徒会長の桂川かつらがわ、そして生徒会の女子数名が腕組をして立っていた。


「あっ、いや、これは……あの」言い訳を考えたが思い浮かばなかった。


「あれだけ、臨海学校に参加するのを嫌がっていたのに、今はご満喫のようですね」言いながら友伽里ゆかりはボキボキと指を鳴らしている。


「あっ、ゴミだ!」俺は近くに落ちていた空き缶を拾った。まるでボランティア活動でもするように……。


「誤魔化すな!」彼女のフライングキックが背中に炸裂し、俺はビーチを二・三回ほど転がった。


「なっ、何しやがるんだ!」全身をくまなく砂まみれにして俺は叫んだ。


「バスの中で言ったでしょ!女子の委員は海水浴場の確認、男子は宿泊施設の確認をするって!どうしてあんたは海水浴場で女の子を必死に見てるのよ!?」友伽里ゆかりは半分呆れ、半分怒った様子で俺の顔を指差す。


「えっ、そうだっけ?」バスの中ではほとんど寝ていたので聞いていなかった。


「早くホテルに戻りなさい!」まるで先生のように指導される。


「了解!」俺達は敬礼をしてから、もう一度宿泊代施設へと走った。


「全く、何しに来たのやら」友伽里ゆかりは呆れたようにため息をついた。

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