ほのかなひかり。

第40話 遅 刻

「おはようございます」光（ひかり）の家の玄関先で友伽里（ゆかり）の声がする。

「友伽里（ゆかり）ちゃん、おはよう。光（ひかり）ね、何度も起こしてみたのだけれどまったく起きないのよ」光（ひかり）の母は呆れたように首をかしげた。

「私が起こしましょうか？」友伽里（ゆかり）は前のめりになる。

「いいのよ、そんなことをしていたら友伽里（ゆかり）ちゃんも遅刻しちゃうわ。光（ひかり）は遅れてでも学校に行かせるから、先に行ってね」手を振りながら母は玄関の扉を閉めた。

「あっ･･････」最近、光（ひかり）との登下校が少なくなくなったことで若干のストレスを感じていた。以前であれば、寝ている光（ひかり）の部屋へ飛び込んでたたき起こしていたものだが、それも高校生になってからはさすがに不作法といえよう。　

　男子高校生の部屋に、女の子を勝手に入れることを母親が躊躇することは理解できる。

「ねえねえ、聞いた昨日の話？」電車の中、同じ学校へ通う女子生徒たちが話をしている。

「ああ、放課後の校門にアニーズの白川純一がいた件でしょ」一緒にいる女子生徒が返答する。

「どうやら２年生の渡辺（わたなべ）穂乃花（ほのか）さんを待ち伏せしてたみたい」

「私、見ていたよ。渡辺（わたなべ）さん、なんだか嫌がっていたみたいで同じ学年の男の子が出てきて、彼女を連れて行ったのよ」さらにもう一人。

「えー、信じられない！私なら純一と一緒にどこでも行くし、何をされてもいいわ」それを聞いて他の二人は爆笑する。

（男の子？まさか･･････）友伽里（ゆかり）は聞き耳を立てている。

「その男の子って、あの渡辺（わたなべ）さんとよく一緒にいる子よね」光（ひかり）も多少学校では知られているようである。

「あっ、そうそう名字は忘れたけど･･･････、たしか光（ひかり）って子よ」思い出したように言う。

（えっ、やっぱり光（ひかり）君！？）友伽里（ゆかり）は、人を押しのけて話をする女子高生達の近くに移動する。

「そういえばあのCMの話、知ってる？」話が飛ぶのが女子高生の会話の特徴であるようだ。

「あの渡辺（わたなべ）さんと白川純一の出ているやつの事？」ここでCMと言えばあの清涼飲料水の事であった。

「そう、クラスの篠原さんと小林さんがあの撮影を見に行っていたんだって」

「えっ、あの撮影ってこの近くだったの？」CMの撮影場所は河原の近くの公園ではあったが、場所が解るようなものはあえて映されていなかった。

「ええ、でもあのCM、撮影の途中までは白川純一が演技してたんだけど、途中で具合が悪くなったからって渡辺（わたなべ）さんに同行して来ていた男の子が代役を務めたんだって」誰も知らない情報を自分が所持していることを誇らしげに胸を張った。

「それってまさか･･････？」ここまで、女子高生達の話を聞いたところで、友伽里（ゆかり）の頭の中は真っ白になってしまった。

（･･････）そのまま、電車を降りることを失念し終着駅まで行ってしまい。結局、彼女も学校に遅刻してしまうことになってしまったのであった。