第23話 自己中心

「ここね」桂川かつらがわが木の枝にぶら下がっているホワイトボードを指差す。やはりそれは本来の胆試しのコースとは違う方向を示していた。


「全くどういうつもりなのよ!堂島のヤツ、許せないわ!」友伽里ゆかりはイライラしながら木の根元を思いっきり蹴飛ばした。怒りで頭に血が昇っているようである。


「イライラしても仕方ないでしょう、少しは落ち着きなさい」桂川かつらがわは諭すように呟く。彼女は落ち着いて状況を分析しているようである。


「ちょっと何よ!ひとこと言っておくけど、私はあんた達を事を許していないのよ。元々はあんた達が胆試しのカップルをくじ引きで決めようなんて言ったからこんなことになったのよ!」そこまで友伽里ゆかりが言ったところで桂川かつらがわは呆れ顔でため息を一つ吐いてから振り返る。


「あのね……、あなたの事をみんなが何て呼んでるか知ってる……?自己チュー女の。それが貴方のあだ名よ」桂川かつらがわは淡々とした口調でその事実を告げた。


「えっ、なんなのそれ!?」自分がそんな風に言われている事など露知らず、友伽里ゆかりは驚いた。


「あなたがひかり君と幼馴染みで仲の良い事は皆知っているわ。でも、あなた達は別に付き合っている訳ではないのでしょう?特にひかり君にはその気がないみたいだし……」言いながらもう一度歩みを進める。話をしながらも色々思案しているようである。


「な、なぜそんなこと解るのよ!」図星をつかれたような顔をする。たしかに彼から自分の事を好きとか言われた事などなかった。


「そうじゃ無かったらクラスの女の子達もとっくの昔にひかり君の事を諦めて他の男の子を探してるわよ。どう見てもあなた一人の独りよがりにしか見えないんだもの」冷めた目をして友伽里ゆかりの顔を見る。


「そんな~」友伽里ゆかりは今にも泣き出しそうな声をあげた。

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