第42話 彼女が好きだったんだ

 家のベッドに寝転び天井を見ている。木造の戸建てで少し煤けてくろくなっている部分がある。なんだか無意味に木目の数を数えてしまうが結局途中で解らなくなってしまった。

 なんとも云えない脱力感が全身を襲う。


「ああ、そうだったんだ……」穂乃花ほのかと出会ったこの数ヶ月の出来事を思い出していた。


 最初は、幼い女の子を保育園に送る若くて綺麗いなお母さんだと思った。


 俺の家の前でたまたま彼女の自転車が故障して、それを修理してあげた事で面識が出来たとかと思ったら、今度は突然、俺のクラスに転校生として彼女はやってきた。さすがにあの時は驚いたなぁ。口角が少し上がった感じがする。


 夏の臨海学校での胆試しまさかのカップリング。


 暗闇の中で怖い癖に強がってたなアイツ……。


 そういえば、あの時にひなが妹である事を知ったんだ。しかし我ながら冷静に考えれは解りそうな事なのに、えらい勘違いをしていたものだ。思いっきりバカにされたな。


 あの夜二人で見たほたるは綺麗だった。そして、それを見る彼女の横顔も綺麗だった。その顔に見とれてしまうほどに。


 それから、あのぶっ飛んだCM撮影。まさか俺がタレントの代役をするなんて思ってもみなかった。あの時の穂乃花ほのかの笑顔は最高に可愛かった。


 今まで見た誰の笑顔よりも最高に……。


 そしてあの電車の中での突然のキス。あまりの出来事に俺は夢かと思っていたが……、そう言えばあの後、穂乃花ほのかが言っていた、


 『女の子もね……、好きな人にキスしたくなる時があるんだよ』


 俺は目頭の辺りが急激に熱くなるのを感じる。どうして、素直に自分の気持ちに気がつかなかったのか……。いや、気づいていたのに口にしなかったのか……。気づいていたらどうだって云うんだ。それは押し問答のように俺の頭の中を駆け巡る。


「やっぱり、俺は穂乃花ほのかの事が好きなんだ!」


 その言葉を口にした途端、魔法が解けたように俺の感情が涙となって両目から溢れ出た。

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