第44話 待ってくれ!

 屋上から景色を眺めているとなにやら騒がしくなってきた。遠くからサイレンの音がする。


「救急車か?」その音はだんだんと近づいて来たかと思うと学校の前で停車する。


 校内から慌てた様子で出てきた教師が正門を開いくと救急車は門をくぐり抜けて校舎の入り口に後ろ着けした。


 車の中から二・三人の救急隊員が飛び出してくる。ストレッチャーを準備すると校舎のの中に慌てるように入って行ったかと思うと誰かを搬送して救急車の中に待機しているようであった。


 俺は興味本意もあり屋上から校舎の中に入り階段をかけ降りた。誰か怪我でもしたのか、それとも激しいケンカで怪我人が出たとか、勝手に色々な想像を膨らませていた。

 三階から二階におり階段に差し掛かる。そこで俺は足を止めた。


 目の前には酷い血の海が広がっていた。こんなに激しく血が飛び散っている光景を俺は今まで見たことがなかった。まるで殺人でもあったのかと思わせるほどの有り様であった。


「これは、酷い……」自然と俺の口からその言葉が出た。近くを見ると桂川の姿が見えた。


ひかりくん、渡辺ほのかさんが……」彼女は気が動転している様子であった。彼女の口から穂乃花ほのかの名前が出て俺の胸に一気に不安感が広がる。


穂乃花ほのかって、まさかこれは穂乃花ほのかの!」俺はもう一度、血に染まった階段の踊場に目を向けた。


穂乃花ほのかさんが階段から……、頭を強く打ったみたいで……、意識も……」彼女の話を最後まで聞かず、俺は次の瞬間一気に階段をかけおりた。


穂乃花ほのか穂乃花ほのか!!」穂乃花ほのかの名前を何度も叫びながら階段を一階までかけおりる。


 校舎の正面玄関に到着すると目の前に救急車が見えた。俺が駆け寄ろうとすると同時に耳をつんざくほどの激しいサイレンをならしながら救急車は走り去っていく。


「ちょっと、待ってくれ!!穂乃花ほのかが、穂乃花ほのかが!!」俺の叫び声はサイレンにかき消された。


渡辺ひかり君、どうして……」救急車が去った後に保健の先生が立っていた。


「先生、穂乃花ほのかは、穂乃花ほのかは一体どこに!?」俺は救急車の後を追うべく行き先を聞く。


「どこの病院に搬送されるかはわからないわ。田中先生の連絡を待たないと……」どうやら付き添いで担任の田中先生が救急車に同乗していったようであった。


 俺はその場に膝を着いて項垂うなだれた。

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