第32話 アニーズ 白川

「キャー純一様!」


 午前中の撮影を終えて休憩に入ろうとする白川純一に黄色い歓声が浴びせられる。白川は爽やかな笑顔で手を振る。


「なんなんだよ!あの女!」白川は用意されたバスの中に入ると表情を急変させた。


「これお弁当です」マネージャーが用意された弁当を差し出す。


「なにこれ?アイドルが食べる弁当じゃないよね、これ?他にないの?」白川は駄々をこねる子供のように文句を言う。


「すいません、今回はこれになります」マネージャーの女性は頭を深々と下げる。ちなみにその弁当は彼女が用意したものではなくて、現場で用意したものである。他のスタッフやひかり達の物よりもランクが少し上の内容であった。


「あの女!渡辺直人の娘かなんか知らないけれどよ!明らかにイヤイヤやってるじゃねえか!胸くそ悪い!」文句を言いながらも弁当を完食していく。


「昼から、ボイコットしていいかな?」白川は爪楊枝で歯の間に挟まった食べ物のカスを取りながら呟く。


「えっ、どういうことですか?」マネージャーは驚きを隠せない。


「あっ、弁当食ってから腹痛になって動けないって言ってくれ!やってられるか!こんな現場!」白川はバスの背もたれに体重を預けてもたれ込んだ。


「俺がいなければ無茶苦茶になるだろうな」白川はなんだか嬉しそうに微笑んだ。

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