第48話 映画鑑賞

 半年後、白川純一と穂乃花ほのかのダブル主演という形で映画が公開された。

 内容は男性アイドルと、そのアイドルに憧れる女子高生の恋物語みたいな感じであった。なぜだか成り行きで友伽里ゆかりと一緒に観賞に来たが正直いって女性向きの内容で俺の頭の中にはそのストーリーは入って来なかった。


穂乃花ほのかさん素敵だったね」映画を見終わった帰りハンバーガーショップで軽く食事をする。友伽里ゆかりはどっぷりと映画の世界に入っていたようであった。


「そうか?やっぱり映画はアクションがないと面白くねえよ」コーラの入った容器から突き出たストローを軽くくわえて俺は外の景色を見た。


「やっぱり双子の妹でも他の男の人とイチャイチャしているのを見たら焼きもち焼いちゃいますか?」友伽里ゆかりは両腕で頬杖をつきながら笑った。


「うるせー」俺は体の向きを彼女から反らした。なぜか図星を突かれたような気がする。


「訂正しないんだ……」あの日から友伽里ゆかりの俺に対する態度にも若干の変化があった。

 穂乃花ほのかに彼女を突き落としたのが自分であると告白したが、穂乃花ほのかは笑いながら自分の不注意で階段から落ちたのだと言っていた。

 当の本人が自分で足を滑らせたというのだから友伽里ゆかりの事を責める事も出来ない。穂乃花ほのかがそう言った時、友伽里ゆかりは号泣して穂乃花ほのかの体にしがみついた。


「あれから穂乃花ほのかさんとは会ってないの?」ちょっと後ろめたい事でもあるかのようにいつもより声が低い感じがした。


「ああ、芸能人さんだからな、なかなか会えねえよ」実際あれから彼女とはほとんど会っていない。


「でも、ひかり君にもお誘いがあったのでしょう?芸能界へのお誘いが」誰に聞いたのか解らないがそれは事実であった。別れていたとはいえ、有名芸能人である渡辺直人の一人息子ということで穂乃花ほのかの二匹目のどじょうを狙っているのだろう。


「俺に、演技なんて無理だわ。一体なに考えてるんだろうな。あのおっさん」あの芸能プロダクションのおっさんにその話をされた時は呆れて言葉が出なかった。


「でも、せっかくのチャンスなのに、なりたいと思ってもなれない人が多いのよ」友伽里ゆかりは、なぜか残念そうに呟く。そういえば、穂乃花ほのかと同じような話ををしたような気がする。


「でも、穂乃花ほのかさんがあんな有名人になるとは思わなかったわ。サインでももらっておけば良かったかしら」友伽里ゆかりは残念そうな顔をした。


「そんなもん欲しいか?要らねえだろ」


「でも、値打ちが出るかもよ」穂乃花ほのかがもっと有名になったらサインを売り飛ばすつもりなのかと思った。


「結局、金かよ」俺は精一杯の呆れ顔を見せた。


 友伽里ゆかりと別れて家に帰る。途中そろそろ自分も受験生であることを思い出して大学の赤本を書店へ探しに行くことにする。

 書店の自動ドアをくぐり店内へ入る。


「なんじゃこりゃ!」俺は書店の中のを見て絶叫してしまった。

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