第30話 奢れよ

ひかり君、ちょっと貴方にお願いがあるのだけれど……」放課後、穂乃花ほのかが汐らしくつぶやく。


「なに、俺に出来ることかな」まあ、出来ない事は初めから頼まないだろうとは思うがとんでもないことならどうしようかとふと考える。


「うん、ちょっとここでは言いにくいから向こうで話してもいい?」彼女は教室の外を指差す。俺達のやり取りを見て友伽里ゆかりはヤキモキしているようだ。


「なにかあるなら私も一緒に」友伽里ゆかりは会話に加わろうとする。


「ご免なさい。これはひかり君にしかお願い出来ないのよ」そう告げると俺の握り教室の外へ導いていく。その様子を見て教室の生徒達は唖然としている。


「お、おい……!」俺は恥ずかしくなって手を振り払った。


「あっ、ご免なさい。つい……」自分の行動に驚いたように真っ赤に頬を染めた。出会った時より少し雰囲気が変わったような気がする。明るくなったというか、積極的というか……、学校に慣れてきたということだろうか。


「それでお願いって何なんだ?」俺は弾む心を隠す為にわざとぶっきらぼうに話を進める。


「夏休みの公園に来た芸能事務所の人覚えてる?」少し嫌な事を思い出すように彼女は少し顔をしかめた。


「ああ、あの気にくわないオッサンな!覚えているよ。」同じく俺もあの男に感じた不快感を思い出していた。


「あれからもしつこくて……、結局お父さんと話をして一回だけ短いCMの仕事をやってみて、それでも私が芸能界の仕事が嫌だったらあの人は諦めるって話になったの」穂乃花ほのか窓に肘をついた。


「そうなんだ、それで俺は何をすればいいんだ?」今の話の中で俺がお役に立てそうな気がしないのであるが……。


「今度の土曜日に撮影があるんだけど……、一緒に行ってくれないかな?」急に恥ずかしそうな仕草をする。話の言葉尻が少し小さくて聞き取り難かったが、内容は解った。


「構わないけれど、俺がどうして?」そうなぜ俺がチョイスされるのか理解出来なかった。


「だって、一人だと不安で……、ひかり君が一緒なら……、まだ……」ほぼ消えそうな小さな声でよく聞こえなかった。まあ、ボディーガードみたいなものなのかなと理解する。


「土曜日か、構わないけど……、飯かなんかおごれよ!」


「うん!ありがとう、ちゃんとご馳走するわね」彼女は笑顔を見せながら頭を可愛く傾げた。


 その彼女の仕草に俺はどぎまぎしてしまった。 

 


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