第10話 あー夏休み

 一学期が終了して夏休みになった。


 試験休み後の学校は授業は無く、ホームルームと終業式だけであった。

 色々と思うところはあったが、結局、俺は転校生の渡辺わたなべ穂乃果ほのかと話す機会は、ほとんど皆無であった。


 一度は若干の淡い恋心を抱いき、年上の人妻だと思っていた相手が、実は同年代であり、また自分と同じクラスに転校してきた事にワクワクするような高揚感と、結婚相手がどんな男なのだろうかと想像して、俺の心の中を嫉妬心が入り乱れているような状況であった。

 それは、考えても無駄な事は俺も理解はしている。


 夏の日差しが差し込む部屋。

 カーテンの隙間から灼熱の光線のように直射日光が、俺の体を攻撃する。さすがに尋常ではない汗で彼は目が覚めた。


「畜生、エアコンのタイマーを入れるんじゃなかった」快適な夜を過ごす為、エアコンを入れて外気が入らないように窓を閉め切って眠ったが、日が昇り室温が上がってしまっては、逆に外気を遮断した部屋の中はサウナのようになっていた。彼は、とりあえず汗だくになったシャツを脱ぎ捨てた。


ひかりくーん」窓の外から聞きなれた声が聞こえた。窓の施錠を外して、二階の部屋から見下ろすと、そこには手を振る友伽里ゆかりの姿があった。


「ああ、おはよう......」眠い目を擦りながら俺は応答した。


「おはようって......、もう、昼前よ......、ってなんで裸なのよ!」友伽里ゆかりは目を軽く背ける。彼女の言葉を聞いて、俺は目覚まし時計の時間を確認した。時計の針は11時半を指していた。


「ねえ、今日一日中猛暑みたいよ。何も予定が無かったら一緒にプール行かない?お父さんがデラックスプールのチケットを2枚くれたのよ」友伽里ゆかりは手に何やら紙のようなものを握っている。どうやら、それは近くにある大型屋外おくがいプールの無料チケットのようであった。デラックスプールの入場料は確か一人二千円ほどであったので、高校生風情が易々と行ける場所ではなかった。


「おー!行く行く!飯食って準備するから待っててくれ!」


「解かったわ、1時頃にもう一度迎えにくるわね」そう言うと友伽里ゆかりは、軽くウィンクをして自分の家に姿を消した。

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