29
そして2日後。
ようやく熱も完全に下がって体調もよくなったあたしは、学校へと向かっていた。
相変わらず、頭の中は先輩と鉄平のことでいっぱいで、答えは出ないまま……。
ガヤガヤ。
ざわめく朝の生徒玄関で、あたしは呼び止められた。
「佐河、おはよう」
ドキン。
せ、先輩っ。
「あ、お、おはようございます。先輩……」
どうしよう、緊張して先輩の顔がまともに見れないよ。
「風邪で休んでたって聞いたけど……。もういいの?」
いつものように変わらず優しい先輩。
でも、やっぱり心なしかちょっとだけソワソワしているように感じるのは気のせいかな……。
「はい、もうすっかり大丈夫です……」
「そっか、よかった」
先輩が笑顔になってくしゃっと髪をかき上げた。
「……あのさ」
先輩がなにかを言いかけた時。
「おい、琉島ーーーーっ。ちょっと来いよ、すっげーんだって」
向こうで先輩の友達数人がはしゃぎながら呼んでいる。
「先輩……呼んでますよ、友達」
先輩を見ると、友達の声のする方を見てかすかに『このヤロー』って顔して、友達とあたしの方をオロオロ交互に目を向ける。
オロオロ。
……ぷ。
先輩の表情が、なんだかおもしろいというかカワイらしいというか。
そんな先輩の姿を見ていたら、緊張が少しだけやわらいだ。
「琉島ーーーーっ」
「先輩、早く行ってあげた方が……」
「ああ。悪いな、佐河」
先輩が行きかけて、ふと立ち止まった。
「ーーーーー昼休み、東階段のとこに来てくれないか。少し話がしたいんだ。待ってるから」
え。
「あ、は、はい……」
あたしが小さくうなずくと、先輩はにっこりほほ笑んで走っていった。
あたしは、そんな先輩の後ろ姿をしばらく見送っていた。
「あ、奈々、おはようっ。具合はどう?もうすっかりよくなった?」
教室に入るなり、ひと足先に来ていたちとせが飛びついてきた。
「イェイ。佐河復活」
ピース。
「ちょっと奈々っ。久しぶりじゃん、どうしちゃったのよっ」
クラスの女子が走り寄ってきた。
「奈々がいないから、教室静かだったよー」
「そうそう。あの奈々が風邪ひいて学校休むなんてって、みんな驚いたのなんのって」
ちょっとちょっと。
「さてはバカは風邪ひかないハズなのに、とでも言いたいんでしょー」
「心配してたってことよ」
なんて、笑いながらひとしきりふざけ合ってみんなが去ったあと、ちとせがボソッとあたしに言ったんだ。
「みんな、ホントはすごく心配してたんだよ。奈々のこと」
「え?」
「奈々が毎日鉄平のとこに行って明るく元気にがんばってるの、みんな知ってるからさ。体も神経も疲れてへばっちゃったんじゃないかって………」
「え……」
みんな………。
「そんなことないよ。あたしは勝手に雪まみれになって風邪ひいたんだもん。疲れてなんかないよ。それを言うなら、ちとせやてつやの方こそ、お店の手伝いや部活もあるのに」
「ううん。あたし、鉄平に会いに行くの楽しみだもん。今では行かないと逆になんか落ち着かないカンジ」
「わかる」
2人で笑った。
「でも……。あたし、今は……やっぱりまだどういう顔して鉄平に会えばいいのかわかんない」
わかんない……。
「ーーーー琉島先輩のことは?同じくどういう顔して会えばいいかわかんない……ってカンジ?」
「うん……。実はさっき玄関で会ったんだ」
「おお。で、どうだった?どうするか考えた?」
あたしは、カバンの中の教科書を机にしまいながら首を横に振った。
「なんか、答えが出なくて……」
「そっかぁ」
ちとせが前の席に座った。
「で、さっき先輩とはなんか話したの?」
「うん……。少し話がしたいから、昼休みに東階段のとこに来てって……」
東階段ーーーーーー。
あそこって、備品室とか物置になってる教室の近くの階段で、ほとんど人が来ないんだよね。
「東階段っ。知る人ぞ知る穴場の告白スポットじゃん。どうすんの?奈々。先輩、きっと奈々からの返事を聞こうと思ってるんだよ」
「うん……」
きっとそう、先輩はあたしの返事を待っているんだ。
でも、いまだに信じられない。
あたしがずっと憧れて片想いしてきたあの琉島先輩が、あたしのことを好き……だなんて。
そして、鉄平も……ーーーーー。
なんだかいろんなことがいっぺんに起きて、これは本当のことなの?って誰かに聞きたい気分。
だけど。
これは、今あたしの目の前で確かに起こっていることであり。
その証拠に、その日の昼休み。
約束どおり、東階段のところで琉島先輩があたしを待っていたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます