6

「ねぇ、お姉ちゃん。お母さんって何時に帰ってくんの?」


キッチンにいるお姉ちゃんに声をかけた。


「さぁー。そんなに遅くはならないって言ってたけど、21時半頃にはなるんじゃない?お父さんは今日も残業だって」


「ふーん」


「あ、そういえば。この前久しぶりに鉄平くんに会ったわよ。前はやんちゃでカワイイってカンジだったけど、なんかずいぶん男前になって。カッコイイってカンジになってきたよねー」


炒め物をしながら、お姉ちゃんが嬉しそうに言ってきた。


けっ。


「どこがっ」


あんなヤツ。


「なによ、ずいぶん冷たいじゃない。ケンカでもしたの?」


「知らないっ。あんなヤツ」


「あーーー。ケンカしたんだぁ」


お姉ちゃんがニヤニヤしながらあたしの顔を覗き込んできた。


「早く仲直りしなさいよー?」


だぁれが仲直りなんかするもんか。


「どうせまたすぐケロッと仲直りするんだろうけど。幼なじみかぁ。ま、ケンカするほど仲がいい。ってね」


ふん。


「単に面倒くさい関係なだけですー」


あたしは、知らん顔して食器棚からお皿を出す。


「とかなんとか言いながら。アンタ達、小さい頃からいつでもどこでも一緒だったじゃない」


「好きで一緒にいたわけじゃないもん」


「よく言うわよ。幼稚園の時なんて毎日仲良くお手手つないで出かけてたくせに」


う。


「それに、アンタなんて『鉄平と一緒じゃないとイヤ!』なーんてよくだだこねてたじゃない」


げげっ。


そんなこと言ってたっけ?あたし……。


「なんだかんだ言って、アンタ達仲いいんだから。お互いのことも、きっと誰よりもわかり合える存在だと思うし」


「……わかり合ってなんかないもん。お互い嫌い合ってるけどねー」


へーんだ。


いくら幼なじみでも、あたしと鉄平はそんなステキな関係じゃないんだよ。


残念ながらっ。


「そんなことばっかり言ってないで、ホントに大切にしなさいよ。その絆」



ーーーーーー絆。


……絆なんて、ないもん。



ふんだ。


なーにが幼なじみよ。


あんなムカつくヤツ、いなけりゃよかったのに。


鉄平なんて。




その時だった。



ーーーーーーーーヒュン。



そんな音が鳴るように、一瞬なにか冷たいものが胸をよぎったの。


パリンッ……。


気がつくと、あたしの手からガラスのコップが床に落ち、割れていた。


「あ………」


「奈々っ⁉︎」


お姉ちゃんが驚いて振り向いた。


あたしは、にわかに震える自分の手のひらを見つめた。


なに、今の。


今まで感じたことのない、胸騒ぎのような。


なにか、そんなものを感じたんだ。


なんか、イヤなカンジ。



「ちょっとどうしたのよ。大丈夫?ケガは?」


お姉ちゃんが駆け寄ってきた。


「ーーーーーお姉ちゃん……。あたし。なんか今……」


「奈々。アンタ顔色悪いよ?どっか具合でも悪いの?」


と、次の瞬間。


電話の音が鳴り響いた。



トゥルルルルーーーーーーーー



ビクッ。


なに……?


なんだか妙に胸がざわざわしてる。


「あたし出るから。奈々、掃除機」


そう言ってお姉ちゃんが走っていった。


……なんだろう、このモヤモヤしたカンジ。


あたしが、大きなガラスの破片を手に取ったと同時に、お姉ちゃんの声が聞こえてたきた。


「はい、佐河です。ーーーーあ、奈々ね。ちょっと待っ……ーーーーえ?」


お姉ちゃんの声が止まった。


なに……?


どうしたの?


様子が変だよ。


「お姉ちゃん、誰……?」


なんとなく胸騒ぎがするまま、あたしは静かにお姉ちゃんに近寄ったんだ。


すると突然、お姉ちゃんが真っ青な顔をして振り向いたの。


そして、耳を疑うような信じられない言葉を口にしたんだ。




「奈々っ。鉄平くんが………鉄平くんが、事故に遭ったって!!」




「ーーーーーーーえ……?」




なにもかも全てが凍りついたように。


あたしは、動けなかった。



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