17
「奈々」
ポンーーーーーー。
優しく肩を叩かれて、あたしは振り向いた。
「どーこ行ったかと思った」
「オレはまた迷子にでもなったのかと思ったぜ」
ちとせとてつやが優しく笑って立っていた。
キィ……。
病院のすぐそばにある自然公園のブランコ。
3人の乗っているブランコの錆びた音が、小さくゆっくり鳴っている。
「ごめんね……さっき。泣くつもりなんかなかったんだけど……」
「なーに言ってんのよ。奈々が謝ることなんてない。……今まで、ずっと無理して明るくしてたんじゃないの?」
「……そんなことないよ。ホントに元気だったんだよ?ただね……鉄平が、あたしのこと『どっかで会った気がする』って言った時。なんか妙に胸が苦しくなっちゃって……。勝手に涙がこぼれてきちゃって………」
鉄平の声が頭に蘇る。
「アイツ……なんか思い出しかけてんじゃねーの?佐河のこと……」
てつやがあたしの方を見た。
「どうなんだろう……。わかんない」
でも、もしそうならーーーーーー。
元の鉄平にほんの少しでも近づいてきてるってこと……?
かすかな記憶でも、少しずつ取り戻してきてるってこと……?
「あ……。サッカーボールとかユニフォームとか見せた?」
あたしが聞くと、てつやが笑いながら首を振って言った。
「鉄平のヤツ、佐河のこと心配してそれどころじゃなかったもんな」
え?
「そうそう。『奈々はどうしたんだ、なんで泣いてたんだ』って、そればっかり。まったくー。全然バレてるよ、目にゴミなんか入ってないって」
ちとせが呆れたように笑ってる。
鉄平が、あたしをーーーーーーー?
「ボールはさ、こっそり鉄平のベッドの下に置いてきたから。佐河の調子のいい時にでも、鉄平に見せてやれよ。オレ達は病院に来れない日もあるからさ。それに、万が一ボールを見た瞬間に、鉄平がピキーンと全部思い出したら。やっぱその時は佐河がそばにいないと。ま、そんな簡単にはいかないか」
てつやがケタケタ笑った。
ちとせもにっこりうなずいている。
「ーーーーー……ありがとう。2人とも」
てつやも鉄平同様ちょっぴり悪ガキモードだけど、すごくいいヤツだ。
この2人が一緒にいてくれて、ホントによかった。
その時、ふ……っと冷たくてやわらかいものがあたしの鼻先に落ちてきた。
「冷た……」
白い、綿ーーーーーー。
「おーーーっ。雪だぁ……」
あたしよりひと足先に声を上げて立ち上がったのは、てつやだった。
「うわぁ……」
見上げた薄紫色の空から、次から次へとふわふわのボタン雪が舞い降りてくる。
「キレイ……」
「初雪かぁ」
小さな子どもみたいに。
あたし達は、口をポカンと開けて舞い降りてくる美しい雪に見入っていた。
「どうりで寒いと思ったぜ」
「うん」
もう、冬かぁ。
「ーーーーー鉄平も見てるかなぁ。この雪」
ちとせが小さくつぶやいた。
「見てるよ、きっとーーーーー」
鉄平、小さい頃から雪が大好きだったもんね。
よく雪合戦して遊んだっけ……。
なぜかひどく懐かしく感じる。
「鉄平が元気になったら、みんなで雪合戦しようぜっ」
「えー?」
てつやがイタズラっぽくあたし達を見た。
「3対1で、鉄平にぶつけまくるっ」
シュッ。
雪玉を投げるフリ。
あたし、ちとせ、てつや対鉄平ーーーー。
想像したら、あんまりおかしくて。
ちとせと顔見合わせて笑っちゃった。
いいね、それ。
「絶対やろう!」
3人で大きくうなずいて、また笑った。
いいね、早く鉄平に雪玉をぶつけたいよ。
「鉄平ーっ。早く元気になれよぉーーー!」
あたしは、空に向かって思いっ切り叫んだ。
「よし、オレも。鉄平ーーーーっ。元気になったら、一緒にサッカーやるぞぉーーー!」
「あたしもっ。鉄平ーーーーーっ。早く雪合戦やるよぉーーーー!」
てつやもちとせも空に向かって叫んだ。
そして3人で笑った。
なんだか、不思議とスーッと気持ちが雪にとけて心が軽くなるような………。
悲しみをやわらげてくれるような………。
そんな優しい気持ちになるようで。
あたしは、そっと静かに目を閉じた。
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