38
明るい太陽が差し込む窓際のカウンター席で、あたしはぼんやりしながらちとせを待っていた。
ここは、病院近くのロッテリア。
あたしとちとせは、お昼を一緒に食べようとここで待ち合わせしてるんだ。
昨日の琉島先輩とのこと。
電話で話したんだけど、鉄平の病院に行く前に、やっぱりちゃんとちとせと会って話したくて。
ピ。
ケータイの着信履歴を見る。
画面には琉島先輩の名前。
あたしは、その画面の中の名前をじーっと見ていた。
この人が……ホントにあたしの彼氏……?
〝彼氏〟ーーーーーーー
ボワッ。
一気に顔が熱くなる。
か、彼氏だなんてっ。
なんだか恥ずかしいような、照れくさいような、夢みたいなような……。
ひと晩たった今もまだ、昨日の出来事が信じられないっていうか……。
あたしなんかが、あんなステキな人と……。
「奈々ー」
ちとせの明るい声がして、あたしは顔を上げた。
「ああ、ちとせ」
「ちょっとー。幸せいっぱいのハズの少女がなにそんな難しい顔してんのよ」
「え?難しい顔?」
「うん。ほっぺたバラ色にしながら」
ちとせがニヤニヤしながらあたしの顔を覗き込む。
もぉっ。
「別にバラ色じゃないですっ」
「とりあえずなんか食べよ。あたしお腹ペコペコ。奈々の分も頼んでくる。なにがいい?」
「サンキュー。じゃあ、飲み物はあるからチーズバーガーとポテトS」
「了解」
ちとせが元気よくレジカウンターに向かった。
「ーーーーーあたし。まだなんか信じられなくてさぁ……」
ポテトをつまみながら、あたしは昨日のことを思い出していた。
「そのうち実感湧いてくるって。これからはしょっちゅう2人で会ったり、電話したり、メールしたり。もう、ただの先輩と後輩じゃないんだから」
にっこり笑うちとせ。
そっかぁ……。
これからは、あんなステキな先輩といっぱい一緒にいられるんだ……。
「よかったね、奈々」
「うん……。ありがとう」
「ただ……。鉄平のことはもう大丈夫なの?」
「ーーーーー……うん。あたしね、ちとせがあたしに言ってくれたことを思い出したの」
あたしは、手に持っていたコーラをテーブルに置いた。
「あたしはどうしたいのか。そしたらね、自然に『はい』ってOKの返事してる自分がいたの。これでいいんだ……って。あたし思ったの」
そう、あの時あたしはホントにそう思ったの。
こんなに大切にされて、幸せだなぁ……って。
心から思ったんだ。
「……鉄平のことは、やっぱり好きだよ。大切な人だと思ってる。鉄平があたしのことを好きだと思ってくれたことも嬉しかったよ。でもね……。鉄平とは、ずっとずっと今までみたくふざけ合ったり、笑ったり、たまにはケンカしたり。そんな風な関係でいたいの……。そんな幼なじみ、そんな2人でいたいって……思ったんだ」
ずっとずっとーーーーーーーー。
「……そっか」
ちとせが優しく笑いかけてくれた。
「琉島先輩とつき合ってること、鉄平に話すの?」
「うん。ちゃんと話そうと思ってる」
「そっか。でも焦ってすぐに話す必要はないと思うよ。タイミングっていうかさ。鉄平も記憶戻ったばっかりだし、奈々もいろいろあったしさ。お互い気持ちもゆっくり落ち着いてからでもいいと思うよ」
「……そうだね。そうする」
そのうち、鉄平と2人、ゆっくりのんびり向き合って話しができる雰囲気になった時に、ちゃんと話そう。
「鉄平ならきっと大丈夫だよ。奈々の恋を応援してくれるよ」
「ーーーーーうん」
あたしは笑顔でうなずいた。
それから1週間後。
ついに鉄平が退院する日がやってきた。
鉄平もすっかり元気になって、もう完全に元の鉄平に戻っていた。
結局、連日の鉄平の見舞い客で、あたしと鉄平はゆっくり話すタイミングもないままこの日がやってきた。
ホントは入院してるうちに、鉄平ともうちょっといろんなこと話したかったんだけど。
まぁ、鉄平とは幼なじみだし家も隣だし、きっとそのうちゆっくり話せるよね。
あたしはそう思っていた。
琉島先輩とはうまくいってるよ。
ほぼ毎日、先輩とメールのやりとりをしてるんだ。
『おはよう』とか『今なにしてるの?』とか。
先輩の方からいつもマメにメールしてきてくれるんだ。
もちろん会ったりもしてるよ。
あたしが鉄平の病院に毎日行ってるのは先輩も知ってるから、そのあととかにちらっと会ってお茶しながらおしゃべりしたり。
毎日新鮮で、ああ、こういうのがつき合ってるんだぁ、なんて。
ちょっとドキドキしたりしてるよ。
鉄平ともすっかり前みたいなノリでふざけ合ってるいい関係。
まぁ、多少はお互い前よりちょっとだけ優しくなったような気はするけどね(笑)
「あーあ。やっと病院から出られるぜー」
看護師さんやおばさん、そしてあたし達が見守る中、鉄平が飽き飽きしたように大きく伸びをした。
思わずみんなで笑っちゃったよ。
今日はさわやかな冬晴れ。
病院の正面玄関で、看護師さんが笑顔で鉄平に言った。
「鉄平くん、本当によかったね。退院おめでとう」
「ありがとうっす」
鉄平も嬉しそうにペコッと頭を下げた。
その時、後ろから元気な声が聞こえてきたんだ。
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