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「メリークリスマス!」



あたし達は、鉄平のベッドのカーテンの影から元気に顔を出した。


ベッドの上に座ってお茶を飲んでいた鉄平が、驚いた顔であたし達を見る。


「じゃーん!クリスマスケーキだよー」


あたしは、箱に入ったクリスマスケーキをひょいっと持ち上げた。


「おおっ」


鉄平が嬉しそうに声を上げた。


「それから……。カワイイお客さんがもうひとり」


後ろにいたてっぺいくんが、嬉しそうにベッドに駆け寄った。


「おーっ。ちびてつっ」


鉄平が嬉しそうにてっぺいくんの頭をなでた。


ちびてつだって。


カワイイー。


「さっき下のロビーでたまたまてっぺいくんと会ったの。カワイイからちょっと話してたら、同じ名前のお兄ちゃんにサッカー教えてもらったって言ってたから。たぶん鉄平のことだと思って。てっぺいくん、またサッカー教えてもらいたいって言ってたから一緒に連れてきたんだ」


「そうだったのか、ちびてつ」


「よーしっ。みんな揃ったことだし、ケーキ食おうぜ。オレ腹減った」


てつやが元気に言った。


「じゃじゃんっ」


あたしは、ケーキの箱をパカッと開けた。


「おおおっ。すげぇっ。うまそ!」


鉄平が、子どもみたいな笑顔を見せた。


ふふ、鉄平ホントに嬉しそう。


よかった、喜んでくれて。


なんだかあたしもすごく嬉しいよ。


「にーちゃん。オレ、サンタにサッカーボールもらったんだっ。だから、またサッカー教えてくれよな!」


「おお、そっか。よかったなぁ。じゃあ、あとでちょっとやるか!」


「うん!」


てっぺいくんが満面の笑顔でうなずいた。


なんか、兄弟みたいでほほ笑ましいカンジ。


「よし、ケーキ切ろう!あと、ジュースで乾杯しよ!」


あたしは、持ってきた紙皿やナイフ、紙コップやジュースを台に並べた。


狭いベッド周りで、やいのやいのと用意。


そして。


「じゃあ、あんまり大きな声を出し過ぎずに……メリークリスマス!カンパーイ!」


みんなで、ちょっと控えめな大きな声?で狭いながらに元気よく乾杯した。






「しかし。この寒い中、男どもはよくやるねー」


ちとせが半分呆れたように笑った。



病院の正面玄関に面してある中庭。


寒空の下、鉄平とちびてつとてつやの3人は、軽くボールを蹴って遊んでいる。


もちろんみんな上着はしっかり着込んでるけど、ホント3人とも元気。


ちびてつも右腕にギプスをしてるけど、楽しそうに走り回ってる。


鉄平も、体の方はほとんどよくなってきて、割と自由に動けるようになったようで、今もすごく気持ちよさそうに走ってる。


鉄平がサッカーのことを思い出しかけてるのか、そうじゃないのか。


あたし達は、鉄平にあえてなにも聞かなかった。


サッカーボールを蹴ってはしゃいでいる鉄平が、ホントに楽しそうで嬉しそうで。


あたしは、それだけで十分だと思った。


きっと、ちとせもてつやも同じように思ってると思う。


いい、クリスマスだな……。



あたしとちとせは、そんな楽しげな風景を近くのベンチに座って眺めていた。


なんだか……不思議。


まるで記憶が失くなる前の、いつもの鉄平を見ているみたい。


このままずっと、この風景を見ていたいな……。


そんな気持ちになっていたら、隣に座っているちとせが口を開いた。



「そういえば。最近、琉島先輩とはどう?」


「ーーーうん。相変わらず優しいよ。委員会の時も、いつも鉄平のことを心配して声かけてきてくれるし」


「そっかー。順調にいい距離感の関係保ってるんだねー。あ、でも。今日はクリスマスイブだよ?なんか誘われたりしたんじゃないの?」


ちとせが、ニヤッとしながら聞いてきた。


「そんなのないよー。だってつき合ってるわけでもないんだし……」


先輩はホントにいい人で、今までどおりにあたしに接してくれてるんだ。


でも、『なにかあったらいつでも連絡して』って、先輩がケータイ番号とメルアドを教えてくれたから、あたしも先輩に自分のを教えてアドレス交換はしたんだ。


まだ、一度も連絡取り合ったことはないけどね。


「いやいやいや。いくら普段は普通に仲いい先輩と後輩してても、クリスマスはやっぱちょっと特別なんじゃないの?きっとなんか考えてるって」


ちとせがニヤニヤしながら、あたしを肘でつついてくる。


「そんなことないって。だってあたしホントになにも言われてないもん。今日だって、朝廊下で会って挨拶したけど、それだけだし」


「そうかなぁ。ーーーーーところでさ。そのうち鉄平のことが落ち着いたら、奈々は琉島先輩とつき合うの?」


ドキ。


「待ってる……って言ってくれたんでしょ?先輩」


「……うん。ーーーーいつか、そんな風になれたらステキだなぁとは思ってる。でも、今はまだわからない。なんか、そういうことが想像できなくて……」


「鉄平のこともあるし?」


「うん……かなぁ……」


「そっか。でもさ、奈々はホントにいい男に惚れられたもんだよねぇー。鉄平に琉島先輩に。2人ともカッコイイ上に中身も最高じゃん」


「ーーーーー……うん」


ホントだよね。




「ねーちゃんっ。ねーちゃん達も一緒に遊ぼうよ!」


ちびてつがバタバタと走り寄ってきた。


「よし、遊ぼっか。行こう、ちとせ」


「げげ、寒いけど……。ま、いっか!」


あたし達は、ちびてつに手を引っ張られて立ち上がった。





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