34
「メリークリスマス!」
あたし達は、鉄平のベッドのカーテンの影から元気に顔を出した。
ベッドの上に座ってお茶を飲んでいた鉄平が、驚いた顔であたし達を見る。
「じゃーん!クリスマスケーキだよー」
あたしは、箱に入ったクリスマスケーキをひょいっと持ち上げた。
「おおっ」
鉄平が嬉しそうに声を上げた。
「それから……。カワイイお客さんがもうひとり」
後ろにいたてっぺいくんが、嬉しそうにベッドに駆け寄った。
「おーっ。ちびてつっ」
鉄平が嬉しそうにてっぺいくんの頭をなでた。
ちびてつだって。
カワイイー。
「さっき下のロビーでたまたまてっぺいくんと会ったの。カワイイからちょっと話してたら、同じ名前のお兄ちゃんにサッカー教えてもらったって言ってたから。たぶん鉄平のことだと思って。てっぺいくん、またサッカー教えてもらいたいって言ってたから一緒に連れてきたんだ」
「そうだったのか、ちびてつ」
「よーしっ。みんな揃ったことだし、ケーキ食おうぜ。オレ腹減った」
てつやが元気に言った。
「じゃじゃんっ」
あたしは、ケーキの箱をパカッと開けた。
「おおおっ。すげぇっ。うまそ!」
鉄平が、子どもみたいな笑顔を見せた。
ふふ、鉄平ホントに嬉しそう。
よかった、喜んでくれて。
なんだかあたしもすごく嬉しいよ。
「にーちゃん。オレ、サンタにサッカーボールもらったんだっ。だから、またサッカー教えてくれよな!」
「おお、そっか。よかったなぁ。じゃあ、あとでちょっとやるか!」
「うん!」
てっぺいくんが満面の笑顔でうなずいた。
なんか、兄弟みたいでほほ笑ましいカンジ。
「よし、ケーキ切ろう!あと、ジュースで乾杯しよ!」
あたしは、持ってきた紙皿やナイフ、紙コップやジュースを台に並べた。
狭いベッド周りで、やいのやいのと用意。
そして。
「じゃあ、あんまり大きな声を出し過ぎずに……メリークリスマス!カンパーイ!」
みんなで、ちょっと控えめな大きな声?で狭いながらに元気よく乾杯した。
「しかし。この寒い中、男どもはよくやるねー」
ちとせが半分呆れたように笑った。
病院の正面玄関に面してある中庭。
寒空の下、鉄平とちびてつとてつやの3人は、軽くボールを蹴って遊んでいる。
もちろんみんな上着はしっかり着込んでるけど、ホント3人とも元気。
ちびてつも右腕にギプスをしてるけど、楽しそうに走り回ってる。
鉄平も、体の方はほとんどよくなってきて、割と自由に動けるようになったようで、今もすごく気持ちよさそうに走ってる。
鉄平がサッカーのことを思い出しかけてるのか、そうじゃないのか。
あたし達は、鉄平にあえてなにも聞かなかった。
サッカーボールを蹴ってはしゃいでいる鉄平が、ホントに楽しそうで嬉しそうで。
あたしは、それだけで十分だと思った。
きっと、ちとせもてつやも同じように思ってると思う。
いい、クリスマスだな……。
あたしとちとせは、そんな楽しげな風景を近くのベンチに座って眺めていた。
なんだか……不思議。
まるで記憶が失くなる前の、いつもの鉄平を見ているみたい。
このままずっと、この風景を見ていたいな……。
そんな気持ちになっていたら、隣に座っているちとせが口を開いた。
「そういえば。最近、琉島先輩とはどう?」
「ーーーうん。相変わらず優しいよ。委員会の時も、いつも鉄平のことを心配して声かけてきてくれるし」
「そっかー。順調にいい距離感の関係保ってるんだねー。あ、でも。今日はクリスマスイブだよ?なんか誘われたりしたんじゃないの?」
ちとせが、ニヤッとしながら聞いてきた。
「そんなのないよー。だってつき合ってるわけでもないんだし……」
先輩はホントにいい人で、今までどおりにあたしに接してくれてるんだ。
でも、『なにかあったらいつでも連絡して』って、先輩がケータイ番号とメルアドを教えてくれたから、あたしも先輩に自分のを教えてアドレス交換はしたんだ。
まだ、一度も連絡取り合ったことはないけどね。
「いやいやいや。いくら普段は普通に仲いい先輩と後輩してても、クリスマスはやっぱちょっと特別なんじゃないの?きっとなんか考えてるって」
ちとせがニヤニヤしながら、あたしを肘でつついてくる。
「そんなことないって。だってあたしホントになにも言われてないもん。今日だって、朝廊下で会って挨拶したけど、それだけだし」
「そうかなぁ。ーーーーーところでさ。そのうち鉄平のことが落ち着いたら、奈々は琉島先輩とつき合うの?」
ドキ。
「待ってる……って言ってくれたんでしょ?先輩」
「……うん。ーーーーいつか、そんな風になれたらステキだなぁとは思ってる。でも、今はまだわからない。なんか、そういうことが想像できなくて……」
「鉄平のこともあるし?」
「うん……かなぁ……」
「そっか。でもさ、奈々はホントにいい男に惚れられたもんだよねぇー。鉄平に琉島先輩に。2人ともカッコイイ上に中身も最高じゃん」
「ーーーーー……うん」
ホントだよね。
「ねーちゃんっ。ねーちゃん達も一緒に遊ぼうよ!」
ちびてつがバタバタと走り寄ってきた。
「よし、遊ぼっか。行こう、ちとせ」
「げげ、寒いけど……。ま、いっか!」
あたし達は、ちびてつに手を引っ張られて立ち上がった。
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