33

わんぱくそうなカワイらしい男の子。


だけど、その小さな体の細い腕にはカチッとした真っ白なギプスがはめられていた。


でも、そんなことはおかまいなしというカンジで、目をキラキラさせながらあたしにこう言ったんだ。


「ねーねー。それクリスマスケーキ?」


ワクワクしてる顔。


どことなく小さい頃の鉄平を思わせるような、元気な男の子。


なんかカワイイ。


「そうだよ。クリスマスケーキだよー」


あたしは、少しかがんで男の子に笑いかけた。


ちとせとてつやも、男の子の目線に合わせてしゃがみ込む。


「ぼく何歳?」


ちとせが笑顔で聞くと、その子が元気よく答えた。


「5歳!幼稚園の年中!ゾウぐみ!」


ぷぷぷ、カワイイー。


あたし達がほほ笑み合っていると、その子は目をキラキラさせながら聞いてきたの。


「ねーちゃん達のとこにはもうサンタ来た?」


え。


いきなりの質問に、あたし達は一瞬顔を見合わせちゃったけど、なんだかほんわりあったかい気持ちになって。


あたしは男の子の頭をポンとなでた。


「サンタさんて、いい子の小さい子のとこに来てくれるみたい。お姉ちゃん達だいぶ大きいから残念!」


「そっかー」


「サンタさん、来てくれたんだ。いいなぁー。なにもらったの?」


「うん、来た!ピカピカの新品のサッカーボールもらった!」


嬉しそうな顔。


サッカーと聞いて、一瞬ドキッとしちゃった。


「そうなんだー。よかったね!サッカー好きなの?」


あたしが聞くと。


「うん大好きっ。退院したら外でいっぱいやるんだ!さっきクリスマスケーキも食べたよ。イチゴのヤツ」


「そっかー。いいねぇ」


「オレね、またあのにーちゃんサッカー教えてもらうんだ。オレとおんなじ名前のにーちゃん。すごいんだぜ、頭の上にボール乗っけたり、膝の上で落とさないで何回もボール蹴ったり、なんでもできるんだ」


え……?


なにかが胸をかすめた。


もしかしてそれって………。


「ねぇ、ぼくの名前は?」


「てっぺい」


え。



〝てっぺい〟ーーーーーーー?



あたし達は、思わず顔を見合わせた。


「……てっぺいくんは、そのお兄ちゃんによくサッカー教えてもらってるの?」


ちとせがその子に聞くと。


「ううん。この前初めて教えてもらった。オレが、ロビーでオモチャの小さいサッカーボールで遊んでたら、そのにーちゃんが来ていろいろ教えてくれたんだ」


嬉しそうに話す男の子。


「オレ、大きくなったらサッカー選手になるんだっ」


「ーーーーーーーー」


なんだかまるで、ホントに小さい頃の鉄平とその男の子の姿が重なって、あたしは思わず息を飲んだ。


「ねぇ。それって……きっと鉄平のことに間違いないよ。鉄平、サッカー好きだったこと思い出し始めてるのかな」


ちとせが、あたしとてつやに小さな声で言った。


「だよな。オレも思った」


鉄平……なにか思い出しかけてるの?


あたしがぼんやりその子を見つめていると、てつやが切り出した。


「なぁ。この子、鉄平のとこに連れてってやろうか」


「え?」


笑顔のてつや。


「せっかくサッカーボールもらったんだし、鉄平と遊ばせてやろうぜ。この子にクリスマスプレゼント。ほら、アイツもけっこう子ども好きだしよ」


てつやもそういうとこ、ホント優しいよね。


「てつや、たまにはいいこと言うじゃん」


ちとせがふざけててつやをこづいた。


「なんだよそれー。オレはいつもいいこと言ってるぜ」


ふふふ。


クリスマスだもんね、みんなが楽しいと嬉しいよね。


あたしはてっぺいくんに笑顔で言った。


「てっぺいくん、そのサッカー上手なお兄ちゃん、たぶんお姉ちゃん達のお友達だよ。これからそのお兄ちゃんのとこに行くんだけど、てっぺいくんも一緒に行く?お兄ちゃんもサッカーボール持ってるから、きっとまたサッカー教えてくれるよ」


「ホント⁉︎」


「うん。クリスマスケーキも一緒に食べよ。あ、さっき食べたからもうお腹いっぱいかな?」


「行くっ!食べるっ!やったーーーっ」


満面の笑顔のてっぺいくん。


カワイイなぁ、小さい子って。


「よし、てっぺい行くぞ」


てつやがてっぺいくんの頭をポンと優しくなでた。




こうして。


ひょんなことから、あたし達は鉄平と同じ名前の男の子と知り合いになったんだ。


そして、このてっぺいくんと出会ったことで、鉄平の未来が大きく変わることになるとは、誰も知らないまま。


あたし達は、てっぺいくんの小さな手をつないで鉄平の病室へと歩き出したんだ。



まだ、なにも知らないままーーーーーー。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る