27
「38.6度ぉ?アンタ、昨日一体なにやってたわけ?」
すっかりダウンしてるあたしの横で、お姉ちゃんが体温計を見てたまげてる。
「お姉ちゃん、大学は……?」
「今日は午後から。奈々、アンタもうすぐ期末テストなんじゃないの?風邪ひいて熱なんか出してる場合じゃないでしょ。昨日みたいに夜遅くまでほっつき歩いて雪まみれで帰ってきたりするから……。まぁ、自業自得ね」
「………………」
反撃する気力もないや。
「お母さんは……?」
「今学校に電話してる」
「そう……」
「で、鉄平くんはどう?昨日も病院行ったんでしょ?」
お姉ちゃんが、あたしの布団をかけ直しながら聞いてきた。
「……元気だよ」
「そっか。あたしもお見舞い行きたいんだけど。たぶんわからないだろうしね。これ以上新しい登場人物が現れても、鉄平くんも混乱するだけだしね」
お姉ちゃんが少し寂しそうに言った。
「なんかちょっとでも思い出した?記憶が失くなる前のこと」
「………………」
あたしは黙って首を振った。
「もう1ヶ月半以上経つのか………。ひょっとしたら……。奈々も少しずつ心の切り替えしておくことも必要かもしれないね」
え……?
「……どういう意味?」
お姉ちゃんが、落ち着いた瞳であたしを見た。
「鉄平くん……。もしかしたら、このままの鉄平くんとして生きていくことになるかもしれないってこと……。奈々がそのことをちゃんと理解して、鉄平くんを支えていってあげないと」
なーーーーーー。
「少し空気の入れ替えするよ」
お姉ちゃんが立ち上がって窓に手をかけた。
なに言ってんの?
胸がカッと熱くなった。
「鉄平は治るもんっ。いつかきっと思い出すもんっ。勝手なこと言わないでよ!!」
矛盾してる。
自分だって、ホントは心のどこかでそんな不安を抱えてるのに。
同じようなことを考えたりしてるのに。
だけど……。
「勝手に決めつけないでよっ。お姉ちゃんはなにもわかってないじゃんっ。鉄平は……鉄平はっ……!」
言葉が見つからなくて。
ただ、喉の奥が熱くなって、苦しくて。
「奈々……。あたしは……」
「出てってよっ。早く出てってよっ。ひとりにしてよ!!」
布団を頭からかぶって、あたしはぎゅっと目を閉じた。
涙がこぼれないように………。
ーーーーーーーーーーーーーー
「奈々、具合はどう?」
え……ーーーーー。
なんか、お母さんの声が聞こえる。
「奈々」
ぱち。
名前を呼ばれて、あたしは目を開けた。
あれ……あたし、いつの間に寝てたんだろう。
隣にはお母さんが座っている。
いつからここにいたんだろう。
「熱、だいぶ下がったみたいね」
お母さんが、あたしのおでこを触ってきた。
「お姉ちゃんは……?」
「大学に行ったよ」
「そう……」
「
さっきの出来事が蘇る。
「……あたしも、お姉ちゃんにひどいこと言った……」
ポン、ポン。
お母さんが優しくあたしの頭をなでた。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
「誰か来たわ」
お母さんがすっと立ち上がる。
「ちとせかも……」
「ちとせちゃん来てくれるって言ってたの?」
そうじゃないけど……わかる。
たぶん、ちとせが来てくれたんだ。
「ちとせちゃんだったら上がってもらうわよ」
バタン。
お母さんが部屋を出て行った。
ちとせに会いたい。
会っていろいろ話したい。
コンコン。
ゆっくりドアが開いて、元気な笑顔が現れた。
「やっほー。ドーナツ買ってきたよーん」
「ちとせ……」
その瞬間、張り詰めていた心がぐしゃっと崩れてぶわっと涙が溢れてきた。
「奈々」
優しい声。
ちとせは、そっとあたしを抱きしめてくれた。
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