22

次の日の放課後。



「なーーーなちゃんっ」


ピト。


背後から、甘い声と共に嬉しそうにスキップしながら近づいてくるちとせ。


「な、なに?」


異様なニヤけっぷりのちとせに、思わず一歩引くあたし。


「カモンカモン」


言うが早いか、あたしはちとせに腕を引かれて教室の窓際に連れて行かれた。


そして。


「奈々。昨日、琉島先輩と2人で仲むつまじく夜道を歩いていたってホント⁉︎」


興奮気味に、目をキラキラさせながらちとせが言った。


「えっ⁉︎」


なぜそれをっ?


っていうか、仲むつまじくだなんて!


「病院の近くで、琉島先輩と奈々が一緒に歩いてるのを見たって人がいるのよ。あんた達、いつの間にそういうことになってたわけ?奈々ってば水くさいっ」


「ち、違うよー。もちろんちとせにはちゃんと言おうと思ってたよ。でも、そんな仲むつまじくだなんて……」


自分で言いながら、かぁぁっと顔が赤くなってしまった。


「なによなによ。そんな照れちゃって。ちゃんとくわしーーーく説明してよ」


ちとせがじれったそうに腕を揺すってきた。


「うん……。実は昨日ちとせが帰ったあと、先輩に会ったの。ロビーで鉄平とお茶飲んでたら」


「先輩が病院に?」


「なんか手首ねんざしちゃったみたいで。でも、それだけじゃなくてついでに鉄平のお見舞いにも来てくれるつもりだったらしくて。わざわざプリンのお土産まで買ってきてくれてさ」


「さっすが琉島先輩。気がきくねー」


「でしょー?あたしもジーンときちゃってさ。それでお礼言って、先輩も『じゃあ』って病院出て行ったから。あたしもてっきり帰ったんだと思ってたんだけど。それが……先輩、あたしが病院から出てくるのを外で待っててくれてたの……。あたしと一緒に帰りたくてって……」


昨日の言葉を思い出す。


あんな寒い中、あたしを待っててくれた先輩。


『一緒に帰りたくて』と、あたしに言ってくれた先輩。


夢みたいだったな………。



「決まりだね」


「え?」


ちとせが、勝ち誇ったようにニヤリと笑った。


「間違いない。琉島先輩は、完璧に奈々に惚れているっ」



なーーーーーーー。



「な、な、な、なに言ってんのよっ。そんなバカなことっ。先輩は、夜道をあたしひとりで帰るのを心配してくれて、それで一緒に帰ってくれただけだよっ。や、優しい人なの!」


そう弁解しながらも、ちとせの言葉にあたしの顔はみるみるゆでダコ状態。


「まぁ、前からそうじゃないかとは思ってたのよ。琉島先輩、やけに奈々に優しいっていうか。ほら、あたし言ったじゃん?『先輩は奈々に気があるんじゃないか』って!予想的中だね」


ちとせはあたしの話なんて全く聞かず、妙に納得したようにひとりでうなずいている。


「だ、だからそんなことあるわけないじゃんっ」


先輩が、あの琉島先輩があたしを……だなんて!


「め、めっそうもないっ」


「まーたそんなこと言って。めっそうもないだなんて、先輩だってひとりの男なんだから。好きな子くらいいたって普通でしょ。その相手が奈々だとしても、別におかしくないでしょ」


「で、でも……勝手にそんな……」


ドッキ、ドッキ、ドッキ。


一度一緒に帰ったくらいで舞い上がってちゃ、ダメよダメ!


そんな興奮状態のあたしの肩を、ポンッと叩くちとせ。


「大体さぁ。好きでもなんでもない子のこと、外でずっと待ってたりすると思う?しかも、雪降る寒空の下で」


「………………」



ーーーー『一緒に帰りたくて』ーーーーーー



きゅうぅ。


胸が切ない気持ちでしめつけられる。


そうなの?先輩。


あたしのこと、ちょっとは気にかけてくれているの……?


あたし……うぬぼれてもいいの……?



「結局のところ。奈々と琉島先輩は、両想いだったってことかー」


「りょ、両想いだなんてっ……」


そ、そ、そんなっ。


「いやぁ、めでたいめでたい。もしかしたら、今日も先輩、病院にいたりしてー」


ニヤニヤするちとせ。


「いないってばー」


「わかんないよぉー。ま。とりあえずこのめでたい気分のまま、元気に鉄平のとこに行きますか」


ズキ……。


舞い上がっていた気持ちが一気に冷めて、どんより心が重たくなる。


「どしたの?」


カバンを取りに行こうとしたちとせが、黙っているあたしの方を振り返った。


「それがさ……。実は、昨日鉄平とケンカみたくなっちゃって……」


「え?」


どうしよう、鉄平に会ったらなんて言えばいいんだろう……。


「ケンカって……。なんでまた」


「……それが、あたしにもよくわかんないの。なんか急にそっけない態度になって、突然言い合いみたくなっちゃってさ。気まずい雰囲気のまま病院飛び出してきちゃったんだ……」


あたしは窓の外に目を移した。


鉄平が元気になるようにがんばらなきゃいけないのに。


ケンカなんかしてる時じゃないのに。


「うーん。ま、とりあえず病院行こう。てつやはたぶん今日も来れないだろうし。誰も行かないと鉄平も寂しいでしょ」


「……でも。鉄平に会ったら、あたしどうすればいいか……」


「大丈夫だって、あたしもいるんだし。鉄平のことだから、案外ケロッとしてるかもよ。それにしたって、あんた達はどんな状況でもやっぱりケンカするんだねー」


ちとせがカラカラ笑ってる。


だって……。


そもそも、あたしは鉄平に対して直接ムカついたとかじゃなくて、鉄平がなんか知らないけどやけにイラついたカンジでそっけない態度や言葉を言うから。


それで、あたしもカチンときて言い合いになっちゃったんだ。



それにーーーーーーーー。



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