3
「ーーーーーーひどい話でしょ?」
あたしが涙ながらに話したっていうのに。
ちとせってば。
「ぶはははははは」
爆笑してやんの。
「ちょっと。ちとせ笑い過ぎっ」
「ごめんごめん。あまりにおもしろ過ぎてつい。でもまぁ、鉄平だってわざとやったわけじゃないんだしさ。もう許してやんなよ」
「絶対、イヤだっ」
あんなヤツ、絶対許してやんないっ。
「いつものことじゃん、鉄平のイタズラなんて。それに、おたくら。早いとこ仲直りしとかないと、この先なにかと面倒でやりづらいんじゃないのー?」
う……。
「なんたって、家が隣同士の幼なじみ、なんだからさ」
頭痛が……。
あたしがいちばん触れられたくない事実。
そうなのよ。
あたしとアイツ、なんでかどうしてか、この16年間一緒に育ってきた、いわゆる〝幼なじみ〟ってヤツなのよ。
小さ頃からいつも一緒に遊んでたなんて、信じらんないっ。
おまけにしょっちゅう一緒にお昼寝までしてたなんてっ。
あんなムカつくヤローと!
「げんなりしちゃってるけど、奈々のこと羨ましがってる人、けっこういるみたいだよ」
ちとせがニヤニヤしてる。
「はぁ?どこが羨ましいわけ?」
鉄平なんて、悪さするしか能がないわ、意地悪だわ、口も悪いわでひどいもんだよ。
でも、気がつくとこの16年間。
なぜだか、いつだってアイツが隣にいたのよ。
「あーあ。なんであたし、鉄平なんかと幼なじみになっちゃったんだろ」
深いため息をつくと。
「いいのぉ?そんなこと言っちゃって。もし、鉄平が奈々じゃない他の誰かとすっごい仲良くなったりしたら、寂しいんじゃないのぉ?」
「は。だっれがあんなヤツ。さっさとどっか行け。むしろ行ってくれってカンジ。アイツのムカつく性格は今に始まったわけじゃないけど。今日で堪忍袋の緒が切れたっ」
よくも琉島先輩の目の前で。
「とかなんとか言って、結局いつも仲良くなってんじゃん」
「今回は本気よっ!」
「あ、そうそう。鉄平と言えばあの話。奈々に教えるの忘れてた」
ちとせがポンッと手を打った。
「あの話?なに?」
「鉄平、昨日A組の女子とC組の女子に告白されたんだって」
「え⁉︎」
「1日に2人からだよ?すごくない?」
鉄平が、告白された?
しかも、同じ日に2人からっ?
いやいやいやいや。
「ウソだぁ。そんなのないって。だってアイツだよ?どっかから流れたデマカセ情報でしょ」
あたしが笑うと。
「ホントだって。奈々が知らないだけで、鉄平ワリとモテるんだよ」
え、ホントなの?
しかも。
アイツがーーーーーーーモテる?
あのバカ鉄平がぁ?
「鉄平サッカー部でしょ。で、けっこう上手いらしい。顔だってワリとカッコイイし。それでいて気取らず飾らずの性格で、おもしろくていいヤツだって男友達も多いみたい」
げ……。
みんなは知らないのよ、ホントのアイツがどんなヤツなのか。
ふん、まぁどうでもいいけどさ。
アイツのことなんて、もう関係ないもん。
「ーーーそれで。なんと、鉄平つき合ったらしいよ」
え。
「ーーーーーあ、そ。いいんじゃないの?」
鉄平が……誰かとつき合うーーーーー?
なんか……変。
似合わないよ。
「ウソー」
「え?」
ちとせがペッと舌を出した。
「ごめん。鉄平が誰かとつき合ったって言ったら、奈々がどういう反応するのかなぁーと思って、ちょっと言ってみた」
てへっと笑うちとせ。
「なーによ、それー」
な……んだぁ、ビックリしたよー。
だって、今のアイツを見てても、ギャーギャー騒いでてんでガキなカンジで。
女の子とつき合うとか、想像できないんだもん。
「でも、告白されたってのはホント。さっき職員室行く途中でA組のマミに会ってさ。ちょこっと立ち話してその時聞いたの。で。そのマミも、鉄平のことカッコイイって言ってたよぉー。やっぱ鉄平、モテんじゃん」
ちとせがニヤニヤしながら、あたしの顔を覗き込んだ。
「ふーん。どうでもいいですっ」
しかし、あんなヤツが知らないところでぬけぬけと告白なんかされてたとは……。
「鉄平が誰かとつき合うとか言ったら、ちょっとは動揺したりするかと思ったけど。奈々ってば、全然態度とか変わらないんだもん。つまんないのー」
「当たり前でしょ?」
よくあるでしょ。
幼なじみの2人が、めでたくハッピーエンドになるっていうありがちなパターン。
言っとくけど、あたしは絶対そんなの有り得ないから。
誰が鉄平なんかと。
あたしはね、高校に入学してからずーっと。
琉島先輩ひと筋なんだから。
誕生日、星座、血液型なんかももちろん全部チェックしたり。
用もないのに、ドキドキしながら3年生の教室前の廊下を通ってみたり。
先輩のことを考えて、恋しくて恋しくて眠れない夜もあったり………。
そうやって、ずーっと片想いしてるんだから。
「ねぇ、奈々琉島先輩に告白しないの?」
ドキンッ。
「な、なにっ。急にそんなことっ」
「いや、だってさ。先輩もあと5ヶ月で卒業しちゃうんだよなーと思って」
卒業ーーーーーーーー。
「それに、3年生は進学とか就活とかでこれから大変になってくるし。冬休みに入ったら、もうほとんど会えなくなるかもしれないよ」
ズキン……。
そう考えると、胸が痛いなぁ……。
先輩はあたし達と違って、これからすごく忙しくなるんだ。
「想いは、言わないと伝わらないからさ。まぁ、ちょっとは考えておきなよ」
「……うん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます