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告白、かぁーーーーーーー。
考えたこともなかったなぁ。
と、突如廊下の方から男子達の笑い声が聞こえてきたんだ。
「ぎゃはははは」
むむ、アイツの声だ。
あたしのクラス、1年D組の教室は、廊下を挟んですぐ向かいがトイレなのだ。
しかも男女左右に分かれていくドアのないタイプだから、トイレにいてもそこの廊下を通る人達の声なんかもよく聞こえるの。
もちろん、今向こうから歩いてきてD組の教室に入ろうとしているアイツらの声もね。
「アイツら、もう部活終わったのかな」
ちとせが腕時計を見た。
「もう17時半だ。あ、外も薄暗い。でも、サッカー部にしちゃ早いね」
むむむ……。
アイツの笑い声を聞いただけでも、ムカムカ腹が立ってくる。
その時、同じ班のてつやの声が聞こえてきた。
「しっかしよぉ。今日の佐河、見事にパンツ丸見えだったなっ」
なっ!
「意外と乙女な、ピンクの水玉っ」
「ぎゃはははは」
男子5、6人が爆笑してる。
な、なんなのよ、アイツら!
ムカつくーっ。
「でもよ、あれ見たか?」
同じクラスの石崎の声。
「佐河の慌てよう。オレ、絶対アイツに惚れてると思うぜ」
ドキッ。
「アイツって誰だよ」
「ほら、なんか話してただろ。佐河とさ。えっと……確か3年の元バスケ部のキャプテンでよー。今、保体の委員長やってるヤツ!」
「あー。
ガ、ガガーーーーーーン!!
バレバレじゃんかっ。
よろ……。
「おいおい鉄平、どーすんだよ」
しゃべりながら、アイツらが教室に入っていく。
でも、教室のドアが開けっ放しの上に入り口付近にたむろってるから、きっちり聞こえてしまうのよ。
あたしは、トイレの入り口の影から耳をダンボにして聞き耳を立てた。
教室の中から、鉄平のそっけない声が聞こえる。
「なにがだよ」
「佐河のことだよ。おまえの奈々ちゃん、アイツに取られちゃうかもしんねーぞ」
ーーーーーへ?
「結局のところ、おまえと佐河ってなんだかんだ言っていいカンジなんだろ?」
なにを言いだすかと思えば、石崎のヤツ。
んなことあるわけないでしょーがっ。
このタコ!
だーれがあんなっ……!
「だっれがあんなブス」
言い捨てる鉄平の声。
また〝ブス〟だぁ⁉︎
ピキピキ。
おでこに血管が浮き出てきて、眉間にシワ。
そして、更に冷たく吐き捨てるような鉄平の声が聞こえてきたんだ。
「あんなヤツ、頼まれたってこっちから願い下げだぜ」
なーーーーーー。
胸に、なにか冷たいものがスーッと入ってきた。
それと同時に、怒りの水銀メーターがものすごい速さで上昇して。
パリンッ。
壊れた。
「あ、ちょっと奈々っ?」
ちとせの呼び止める声にも振り返らず、あたしはトイレを飛び出して、ズカズカと教室に乗り込んでいった。
そして、机の上に座っている鉄平の前に、仁王立ちで立ちはだかったんだ。
アンタなんかに、アンタなんかに……。
そんなこと言われたくないわよ。
言われたくない!!
「あたしだって同じよっ。神様に頼まれたって仏様に頼まれたって、アンタとだけは絶対につき合わないっ!」
バッ。
あたしは、机の上の自分のカバンをつかみ取ると、そのまま教室を飛び出した。
悔しくて、悔しくて。
気がつくとあたしの目からは涙がこぼれていた。
なんでこんなに涙が出るのか、自分でもわからないけど。
あとからあとから溢れてきて。
視界が涙でボヤけた。
「奈々っ……」
背中に小さくちとせの声が聞こえてた。
ーーーーー『あんなヤツ、頼まれたってこっちから願い下げだぜ』ーーーーーー
アイツの冷たい声が、頭の中で響いて離れない。
ちきしょう!
琉島先輩の前であんなことされて恥かかされて、『仲いいんだな』なんて誤解されて。
みんなの笑い者になって。
先輩のことが好きなこともバレて。
それもこれも、全部アイツのせいなのに。
最悪な目に遭わされたのに。
それなのに、なんでそのアイツにあんなことまで言われなきゃならないのっ?
ムカつく、腹立つ、信じらんないっ。
もぉ、めちゃくちゃだよっ。
アンタなんか、いなきゃよかったのに。
アンタなんかいなくなればいいっ。
鉄平なんて、いなくなればいいっ!!
道行く人が、泣きながら駆けていくあたしをいらちらっと見ながら通り過ぎて行った。
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