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この嬉しいビッグニュースは、たちまち学校中に知れ渡り。
翌日の今日は、クラスの仲間や部活の仲間が次から次へと鉄平の元へと駆けつけたんだ。
それを見て、みんなホントに鉄平のことを心配してこの日が来るのをずっと待っててくれたんだなぁ、鉄平はホントにみんなに好かれてるんだなぁって、改めて感じたよ。
クラスのみんなのことも、部活の仲間のこともしっかりわかるみたいで、楽しげに話をしている。
記憶は完全に戻ったみたい。
まるで、今までのことが全部夢だったような気さえしてくる。
ホントに不思議。
きっと、あのちびてつとの出会いがなかったら、鉄平はまだあのまま記憶を取り戻すことはなかったと思う。
危険な目に遭ったけれど……あのちびてつとの出会いのおかげでもあるんだよね。
もちろん、鉄平自身が勇敢に助けに行ったことがいちばんのきっかけだと思うけど。
人生って、出会う人によって本当に未来は変わっていくんだなって。
あたしは深く感じたんだ。
あの男の子。
名前も〝てっぺい〟で、なんだかただの偶然ではないような……うまく言えないけど。
神様が、あたし達とあの子を出会わせてくれたような……なんだかそんな気もするんだ。
ベッドの上でみんなに囲まれて笑っている鉄平を見ながら、あたしは『神様、ありがとう』って心の中で何度もつぶやいた。
「ちょっとロビーにでも行かない?しばらく来客も途絶えそうもないしさ」
ちとせが笑いながらあたしに言った。
「うん」
あたしも笑顔でうなずいた。
「ーーーーーーなんか、不思議な気分だよ。この数ヶ月がなんだかウソだったみたいな、夢を見ていたような………」
自販機のあったかいココアを飲みながら、あたしは隣のちとせに言った。
「あたしもだよ。でも、ホントによかった。いろいろあったけどさ」
「ホントだね……。いろいろあったよね……」
あの日の鉄平の事故を境に、あたしの周りは大きく変わった。
なにより、あたし自身にいろんな変化があった。
いろんな気持ち。
どうして鉄平なんかと幼なじみになっちゃったんだろう、なんて思ってたあたし。
アイツなんかいなくなればいい、なんて思ってたあたし。
だけど、本当に鉄平を失うかもしれない、鉄平がいなくなるかもしれない、そう思った時。
初めて自分の中の、鉄平に対する本当の気持ちに気づいたんだ。
失いたくないーーーーーーー。
鉄平が、好きーーーーーーー。
って。
それが例え恋愛の好きではなくても、鉄平を好きな気持ちに間違いない。
大切な鉄平。
ずっと一緒にいたのに、人ってギリギリのとこに来ないと自分の本当の気持ちに気がつかないんだよね。
そして。
鉄平と琉島先輩2人に、いっぺんに初めての告白をされて、いっぱい悩んで、考えて。
いっぱい泣いてーーーーーーー。
でも、鉄平も先輩もホントにいい人で……。
告白してくれたあとも、2人とも変わらずいつもどおり接してくれたから。
だから、あたしもあたしらしくいられたっていうか……。
「で、これからどうするの?奈々は」
「え?」
「鉄平の記憶もやっと戻ったし。もうすぐ退院もできるみたいだし。琉島先輩、鉄平のことが落ち着くまで待ってるって言ったんでしょ?」
「ーーーー……そうだけど……」
「もしかして……。鉄平と琉島先輩の間で気持ち揺れちゃってるとか?」
「えっ?そ、そういうわけじゃないけどっ……。なんていうか、今は、やっと鉄平も記憶戻ったところだし。そのことが嬉しくて。まだ、その他のことにはあんまり気持ちが回らないっていうか……」
「確かにそうだ。今は、無事記憶が戻った鉄平を祝福してあげないとね。それに、奈々もまだ鉄平とゆっくり話もできてないしね」
「うん……」
「あ、琉島先輩にはこのこと言ったの?」
「うん。昨日、初めて先輩のケータイに電話して知らせたよ」
鉄平の記憶が戻ったこと。
先輩にはちゃんと伝えなきゃと思って。
あんなに鉄平のことも心配してくれてたんだもん。
先輩もね、ホントにすごく喜んでくれて。
「そっかぁ。じゃあ、今日あたりきっとなにか考えてるよ、琉島先輩」
「なにを?」
ちとせがこづいてきた。
「今日はクリスマスだよ。きっと夕方あたり、先輩から電話かかってくると思うよ」
えっ?
「か、かかってこないよっ」
「かかってくるのっ」
ちとせがあたしのほっぺたをぶにっとつまんだ。
そして、優しい笑顔でこう言ったんだ。
「鉄平の記憶も戻ったし。先輩もまた改めて想いを伝えてくるかもしれない。その時は、奈々はもう自分が思うようにしていいんだよ。自分に素直になって、奈々がこうしたいーーーーーって思うようにやんなよ」
ちとせ……。
「うん……。ありがとう」
あたしが、こうしたいと思うように……か。
あたしは、そっと窓の外に目をやった。
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