23

「鉄平が琉島先輩を嫌ってるぅ?」



病院に向かう道の途中、ちとせが驚きの声を上げた。


「うん。『オレ、アイツ嫌い』って」


「えーーー?なんで?先輩、鉄平のためにお見舞いのプリンまで買ってきてくれたんでしょ?めっちゃいい人じゃん」



「でしょ?なのにそのプリンもいらないとか言うし。帰り際に鉄平に渡してきたけど……。なんで嫌いなのかも聞いたら、『なんとなく』とか言うし。先輩のこと紹介した時もね、すごくそっけないカンジでさー。先輩と会う前までは全然元気だったのに、急に不機嫌になっちゃって。


しまいには、先輩があたし達のとこに来たのは、単にあたしと帰りたかったからで自分のお見舞いに来たわけじゃない、とかへりくつ言い出してさ。で、イライラしながらあたしに向かって、一緒に帰りたかったら帰れみたいなカンジでさー」



はぁーーー。


一気にしゃべったぁ……。


あたしがふぅーっとため息をつくと。


「ーーーーーははぁー。なるほどね」


ちとせが、いきなりニヤーッと笑い出した。


「な、なによ」


「わかった。鉄平がイラついて、なおかつ琉島先輩のことを嫌ってるわけが」


意味ありげな笑みを浮かべながら、ちとせが言った。


「つまりこういうこと。奈々に近づく先輩、仲良く親しげにしゃべっていた2人。ちょっと先輩にうっとりしていた奈々。それら全部がおもしろくなかったのよ、鉄平は」


えーーーーーー?


「それ、どういうこと?」


「そういうことっ。ったく、鉄平のヤツ。記憶がなくなってもそういうガキっぽいとこホントに変わってないねー。まぁ、いい意味で言うと素直っちゃ素直だけど」


ポン。


ちとせが呆れ笑いしながらあたしの肩を叩いた。


「行こう。鉄平のとこ」


「え、でも……」


「大丈夫っ。絶対ケロッとしてるから」


でもっ……。


「いいから行くよっ」


そう言われるがまま、あたしはちとせに手を引っ張られて鉄平のいる病院へと向かったんだ。





コンコン。


「はーい」


ちとせがノックすると、中からいつもの鉄平の声が聞こえてきた。


「ほらね、いつもと変わんないでしょ」


ちとせは耳元でボソッと言うと、あたしの背中をトンと押した。


ドキドキ。


心なしか緊張する。


あたしは、覚悟を決めてドアを開けた。



「ーーーーー奈々」


ベッドの上の鉄平が、ちょっと驚いたようにあたしを見た。


「……おす」


あたしはおそるおそるちょこっと手を上げた。


いつもの10倍くらい控えめな『おす』。


でも、それが精一杯で。


後ろにいるちとせにヘルプミーしようと振り返ったら。


あれっ?ちとせっ?


いないじゃんか!


逃げたなーーーーっ。


もぉぉぉ!


「……なにしてんだ?」


キョロキョロしてるあたしを見て、鉄平が口を開いた。


「えっ。あ、ううん。なんでも……」


パタン。


ドアを閉めて、おずおずと中に進む。



すると。


「奈々っ」


え?


シュッ。


鉄平があたしに向かってなにかを投げた。


「わっ」


両手でキャッチ。


缶ジュース。


「わ、悪かったな。昨日」


少し恥ずかしそうに、そっぽを向いてぶっきらぼうに言う鉄平。


「ーーーーーー鉄平……」


そんな鉄平の姿が、なんだか妙にカワイくて。


ふっ。


あたしの口元がほころんだ。


「なに笑ってんだよ」


「べつにー」


「それと。プリン、食った。割とうまかった。……アイツに礼言っといて」


相変わらずそっぽ向いてるし、ぶっきらぼうだけど。


先輩が買ってきてくれたプリン、ちゃんと食べたんだ。


ふふふふ。


「……なんだよっ」


「べつにー。あたしもプリンもらおっかなー」


「オレも食お。さっきも食ったんだけど」


「さっき食べたならもういいじゃん。あとはあたしとちとせとてつやで美味しくいただくねー」


「いや、オレも食う!オレがもらったんだから」


「ふふ。さては、割とうまかったどころか、相当うまかったんでしょぉーーー」


あたしがニヤッとしながら言うと。


「うるせーなー。早くプリンプリン」


ぷぷぷ。


あたしと鉄平は、いつものように笑ってた。




「やっほー。あれ、奈々もう来てたんだぁ?」


タイミングを見計らってたのか、あたかも今来たかのような素振りでちとせが中に入ってきた。


「もうっ。ちとせぇー」


わざとあたしと鉄平を2人きりにしてっ。


でも、おかげで仲直りできたよ。


ありがとう、ちとせ。


あたしとちとせは、顔を見合わせて笑った。







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