24

「よかったじゃん、鉄平と仲直りできて」



病院からの帰り道。


薄紫色の空の下、あたしとちとせは肉まんを頰ばりながら歩いていた。


「うん。でも、なんでちとせは鉄平がケロッとしてるってわかったの?」


「だってさ、わかりやすい性格してるじゃん。鉄平って。いつまでもネチネチしてるようなヤツじゃないし」


「まぁ……そうだけど」


「ま、結局は鉄平のヤキモチだったんだし」


「ーーーーーヤキモチ⁉︎」


「そっ。今も昔も、鉄平にとって奈々はやっぱり特別なのよ。っていうか、鉄平もなかなか鋭いよね。奈々と琉島先輩がいいカンジだってこと、瞬間的に察知したんだから。鈍感っぽく見えて意外とカンいいのかも」


ちとせの話に、あたしは大きく手を振った。


「ないない。鉄平があたしにヤキモチなんかやくわけないから」


「それはどうかなー。ま、とにかく仲直りできたんだし。よかったよかった」


ちとせがポンポンとあたしの肩を叩く。



「ーーーーーでも。なんていうかあれだね。最近、鉄平が記憶ないってこと……忘れちゃいそうにならない?」


ズキンーーーー。


ちとせの言葉に、胸が重くなった。


「……あたしも、それは思ってた。ただちょっとケガかかなんかで入院してるみたいでさ……。あたし達もただのお見舞い人みたいで………」


頰で揺れていた髪も、少しずつ伸びてきて。


時間だけが静かに流れていく。


「もうすぐクリスマスかーーーーー」


あたしの大好きなクリスマス。


毎年、誰かの家に集まってワイワイ騒いでたよね。


でも、今年は………。


「いや、クリスマスの前にまず恐怖の期末だよ」


「うわ。ちとせ、イヤなこと思い出させないでよー」


ああ、憂鬱な気分になってきた。


「鉄平は……テストとかどうすんだろ……」


ちとせがボソッと言った。


「……無理だよね。今はーーーー」



今はーーーーーー……。


本当に、今だけーーーーーー……?



テストだけに限らず、いろんなこと全部。


無理なのは、本当に今だけなのかな……。


あたしは、心のどこかにだんだん降り積もっていく不安を確かに感じていた。


そして、それを押し隠していた自分にも気づいていた。


だけど………。




「あたし……。もしかしたら、鉄平はこのまま戻らないんじゃないかって気がしてる……」


ふいにあたしの足が止まった。


「奈々……」


「ちとせも感じてるでしょ……?最初、鉄平にとってあたし達はまるっきり知らない人だったのに。それが、今では鉄平もすっかり友達としてあたし達のことを受け入れてる。元の鉄平じゃなくて、新しい鉄平としてだよ?……どんどんそれに馴染んじゃってる。鉄平も、あたし達も………」


「ーーーーー……確かにね」


ちとせも静かにうなずいた。



もしかすると、鉄平は一生今の鉄平として生きていくのーーーーー?


記憶を失くしたまま……?


もしそうだとしたら。


なんて切ないんだろう。


なんて……ーーーーーーー。



ポン。


ちとせがあたしの肩を叩いた。


「気長にいこう。信じてさ」


「うん……。そうだよね………」



うつむかないで。


前を見ないと。


前だけをーーーーーーー……。








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